しかし、口を開けて待っているだけでは給料は上がらない。考えた末、ユウサクさんは労働組合に加入することにした。同僚の1人が全労連(全国労働組合総連合)傘下の労働組合に入っていたので、そこで補助金や助成事業についての知識を得ようと考えたのだ。制度上の恩恵を最大限引き出すため、自治体による補助金支給の対象となるよう施設の開所日数や指導員の人数を調整したほか、国による処遇改善事業の対象となる「放課後児童支援員」の資格取得を進めた。この結果、指導員らの給与の原資となる自治体からの委託料は、当初に比べて年間100万円は増えたという。
「もちろん僕1人の力じゃありません。労働組合として何度も自治体に申し入れをしましたし、ちょうど国が学童保育の処遇改善に力を入れ始めた時期と重なったことも良かったんだと思います」とユウサクさん。コロナ禍でエッセンシャルワークのひとつとしてメディアなどで学童保育が注目されたことも追い風になったという。
根強い「学童保育に対する偏見」
とはいえ、手取り額20万円足らずでは「保育士の中でも低いほうの水準に届いたくらい」。業界全体を見渡しても、労働組合が機能していない職場は制度についての知識が行き届いていないこともあり、待遇はさらに低い傾向にある。制度の一層の充実と同時に、周知も必要だと、ユウサクさんは訴える。
そのためには社会の価値観が変わることも大切だという。ユウサクさんが見る限り、世間では学童保育に対する偏見はいまだ根強い。
ある日、子どもたちと地域の運動場を使っていたとき、居合わせたスポーツ少年団のコーチを務めているらしい5、60代の男性たちから「学童なんて入れてんじゃねえよ」「金払って他人に子どもの世話させるなんて最低の親だな」と批判されたことがあった。
耳を疑うような言葉だが、少し前に総菜売り場でポテトサラダを買おうとした女性が居合わせた高齢男性から「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」と言われたという話がSNS上で話題になったことを考えると、あり得る話だとも思う。
ユウサクさんは「放課後、子どもを独りぼっちにさせるほうがよほど無責任だと思うんですけどね」とあきれる。
勤続10年の節目を越えた今、ユウサクさんの心中は複雑だ。たしかに待遇は良くなったものの、「この先も今と同じままでは、実家を出ることも、結婚も厳しいと思っています」。年齢を重ねるほど転職は難しくなる。自分はもう十分がんばったのではないか――。20代のころと比べ、むしろ焦りを覚えることは増えた。
取材では、ユウサクさんは学童保育について「すごく楽しい、大好きな仕事」と繰り返した。そしてこう付け加えるのだ。
「人生をかけた仕事にしますと言い切れないことが残念です」
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