テレビが低視聴率でもドラマ枠を急に増やした訳 ついに動きはじめたテレビ業界の変心と危うさ

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深夜ドラマの中には今春に新設された「ドラマストリーム」のように、「1週間から1カ月程度、自社系列の動画配信サービスで先行配信して有料会員を確保しよう」という狙いのドラマ枠もあり、こちらも収益に直結。一方、視聴者としても動画配信サービスでの先行配信は、「テレビ放送を見たあと、すぐに次の話を見たい」という欲求に応えるサービスであり、良好な関係性が築けています。

しかし、「ドラマの配信で収入を得る」「ドラマの世界配信を狙う」という戦略は、まさに茨の道。これまでは国内の他局に勝てばよかったものが、今後は欧米やアジアの強力なコンテンツメーカーとの戦いに勝たなければいけなくなったのです。

配信プラットフォームの普及によって、アメリカ、イギリス、韓国、中国などのコンテンツ大国だけでなく、世界中の国々が配信収入を狙う状況になった上に、配信再生数の数値は放送の視聴率以上にシビア。ほとんど見られない「惨敗」に終わるリスクも少なくなく、マーケティングと制作力がこれまで以上に問われるでしょう。

また、これまでのように「日本人に受けるドラマ」を作ったとしても、ライバルとなるコンテンツの数が飛躍的に増える分、「どれだけ視聴者を確保できるのか」は未知数。毎月、スポンサーから広告収入を得ているような安定感はなく、「配信してみなければわからない」という不安定な戦いを強いられる可能性が高いのです。

「育てながら勝つ」難しい戦い

さらに、各局のドラマ制作現場が抱えるもう1つの危うさは、スタッフの世代交代がスムーズに進んでいないこと。現在も1990年代から2000年代に活躍していたスタッフが多く、何度も高齢化が叫ばれてきました。

ドラマ枠を増やせば、当然スタッフの数も増やさなければいけません。その意味で今春のドラマ枠急増は、「若手を育てながら選ばれるコンテンツを作っていく」という難しいプロジェクトのスタートとも言えるのです。

ドラマ以外でも、テレビ朝日が深夜バラエティを大幅に改編して30分番組を立て続けに放送したり、テレビ東京が配信視聴の見込めるアニメ枠を深夜に増設し続けたりなど、番組編成のさまざまな変化が見られます。これらもドラマと同様の配信視聴を狙った戦略の1つでしょう。

また、民放各局は11日から放送と同時の配信をスタートさせました。最近はこのようなスマホ視聴しやすい環境を整える取り組みが見られるようになりましたし、テレビ局がやっと本気でユーザビリティの向上に取り組みはじめたようにも見えます。しかし、ライバルのコンテンツは増えていく一方だけに、まだまだ選ばれるための努力は求められていくでしょう。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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