──この本には問題ウイルスや細菌の解説がずらりと並びます。
多少怖がってほしい。私が小さい頃は手を洗わなければご飯を食べさせてもらえなかった。しかし、今は手を洗う習慣はないし、床にぺったりと座ったりもする。われわれの世代は本当に病気が怖かった。赤痢菌の保有者は当たり前のようにいたし、日本脳炎だポリオだなどと、怖い病気がたくさんあった。法定伝染病にかかると必ず隔離されたものだ。今はそんな経験はしない。だからデング熱といった死亡率の低い病気で騒ぐ。それが警鐘になり気をつけるようになればいいが。
──デング熱は今年の流行も懸念されています。
デング熱は一昨年にも200人ぐらい患者が出ている。決して珍しい病気ではない。ただ、それは海外で蚊に刺され日本で発病したものだった。今回は国内で感染したから大騒ぎをした。海を越えたら、いろいろな怖い病気がまだたくさんあり、デング熱もまたシーズンになってみないとわからない。
狂犬病は100%死に至る
──海外での罹患(りかん)は多い?
たとえば狂犬病はかかったら100%死ぬ。助ける方法はない。数年前に日本人が2人死んだが、あれは確かインドでかまれたものだ。狂犬病の犬が日本にいないから日本発はここ数十年ない。外国で犬に触るのはけっこう怖いし、狂犬病ウイルスは野生動物を宿主にもする。外国での感染には注意したほうがいい。
──病原保有者でも発症しないなど微妙な要素も感染症にあります。
とにかく専門家に診てもらうことだ。インフルエンザと風邪の識別も、ウイルス持ちかどうかはすぐにわかる。古くて新しい感染症の風疹(ふう しん)にしても、胎盤を通過する数少ないウイルスで妊娠初期に感染すると胎児に心疾患や難聴などの先天性異常が起きる。風疹の感染はワクチン接種を徹底すればもはや防げる。
逆に清潔になりすぎたこともある。たとえばはしかに抵抗力のない人が増えている。昔はけっこう流行してウイルスが体内に入り免疫を作った。時々罹患して記憶を呼び戻さないと、免疫がなくなってしまうことにもなりかねない。
──ノロウイルスの食中毒もよく聞きます。
高齢者は特にノロウイルスには気をつけないといけない。死因としては嘔吐による誤嚥(ご えん)性肺炎によるものが多い。嘔吐物が気管支に入って肺炎になってしまう。若い人は死に至ることは少ない。ノロウイルスそのものは、下痢などの病状はきついが命にかかわるほどではない。
──感染症の予防接種薬や特効薬は乏しくありませんか。
ウイルス病原の子宮頸がんのようにいずれワクチン接種でなくなる方向にあるものもある。だが、抗ウイルス剤やワクチンがないものはまだ多い。これは開発のコストの問題だ。インフルエンザの場合はペイするからある。ヘルペスもたくさん患者がいる。患者が少数だと何十億円もかけたのではペイしないから、資本主義の社会では難しい。逆に患者が増えれば、HIVのように発病をかなり抑えられるようになるし、エボラにしてもコストをかけてやろうとするところが出てくる。
──特にウイルスはどんどん変異するのですね。
ポリオや天然痘は変異しないので、これはいい。変異はインフルエンザが有名だが、ノロウイルスも変わる。特効薬のない感染症と共生するにはまだ「感染しないようにする」しかないところがある。
──生活習慣が大事?
うがいと手洗い。少なくともノロウイルスやインフルエンザの予防にはなる。うがいもまず口をゆすいでから始める。また海外に行くときは予防接種をきちんとすることだ。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら