精神病院に「突如閉じ込められた人々」の壮絶体験 理解に苦しむような話だが、残念ながら現実だ

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原山さんや妻、次男が「退院させてほしい」と繰り返し懇願しても、願いが叶うことはなかった。病院側が、「手続きをした長男が承諾しない限り退院はさせられない」との一点張りだったからだ。

最終的には弁護士の尽力でようやく退院に至るが、入院中の投薬によって肉体的にも自由が利かず、精神的ショックも大きかった原山さんからは、もはや事業を続ける決意が失われていた。結果的に廃業へと追い込まれ、会社借入金の連帯保証人になっていたため多額の借金を抱え、生活が困窮する。

「退院するときのお父さんは、歩くのもふらつき、車の乗り降りもやっとでした。うまくしゃべることもできず、肉体的に元の状態に戻るには半年ぐらいかかりました」(293ページより)

妻は、退院後の原山さんについてそう話す。

「一緒に住んでもいない長男からの連絡一つで、長年連れ添いベテランの看護師でもある妻とは一切話をしないで、こんな拉致・監禁がまかりとおるとはいまでも信じられない。報徳会宇都宮病院の医師たちに、検査もしないで一方的に認知症だと決めつけられたことで、強制入院でたくさんの薬を飲まされ、身体はどんどんおかしくなりました」(294ページより)

原山さんがこのように憤るのも当然の話である。

高齢化社会に考えるべきこと

2025年には団塊世代全員が、75歳以上の後期高齢者になる。厚生労働省の推計によると、認知症の高齢者(65歳以上)は約700万人となるのだそうだ。認知症予備軍にあたる軽度認知障害(MCI)まで含めると、確実に1000万人を超えるとみられ、高齢者の3人に1人となる。

そんなところからも、もはや認知症は特別なことではないことがわかる。したがって本人や家族としては“いかに備えたうえで普通につきあっていくか”、社会としては“いかに認知症の人が当たり前にいることを受け入れる体制を構築できるか”が重要になってくるわけである。

しかし、だからといって原山さんのように、突如として精神科病院への強制入院を余儀なくされるようなことがあるべきではない。だが現実問題として、それは決して少なくない。しかも1人の意志によって根拠も不明確なまま強制入院させてしまえるのだとしたら、同じような人が今後増えていったとしてもまったく不思議ではない。

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