精神病院に「突如閉じ込められた人々」の壮絶体験 理解に苦しむような話だが、残念ながら現実だ
事実、本書においては同様の理不尽なケースが緻密な取材によって明らかにされている。夫からの数年にわたるDVの影響で不安定になり、精神科クリニックに通院していた30代派遣社員の松岡薫さん(仮名)を襲った事態もその1つだ。あるとき言い争いの末のショックで、精神安定剤などをオーバードーズしたことで、夫の同意により精神科病院に医療保護入院となった。
3カ月経ってようやく一時帰宅が許されたが、戻った自宅はもぬけの殻で、夫と子どもの行方がわからなくなっていた。住民票にも閲覧制限がかけられていたため探す手段がなく、途方に暮れているという。ここにDV夫の思惑が介在していないと考えるほうが、むしろ難しいのではないか。
入院患者には「携帯電話を持ち込めない」「面会を制限する」「外部とのやりとりは手紙だけ」などのルールが主治医の判断で課されることもあり、患者が病院内から情報を発信することも極めて難しい。
そのため精神科病院には、通常の病院よりも自主的かつ積極的な情報開示が求められるはずだが、その姿勢には乏しいのが現実だ。大多数の精神科病院の内情は、いまもブラックボックス状態にある。(214ページより)
「眠剤飲ましたろか!」
しかも重要なポイントは、これらはほんの一例にすぎず、似たような、あるいはそれ以上に“ありえない”ことが精神科病院で行われているという事実だ。
たとえば、大阪府内で精神科病院の調査を行う認定NPO法人「大阪精神医療人権センター」が2015年に発行した冊子からの抜粋例にもそれは明らかだ。そこには、訪問調査と患者の声を踏まえた具体的な内容がまとめられているのである。
隔離室:天井までの高さの鉄格子があり、ナースコールがなく、職員を呼ぶには扉をたたくか大きな声を出すしかない。
職員の患者に対する言葉づかいなど:患者から「いい人もおるが、たまに口の悪い看護師がいる」「職員から『うるさい! 黙っとけ! 眠剤飲ましたろか!』と言われた」との声があった。
拘束中の尊厳:救急病棟の観察室ではカーテンが開いたままになっていたため、身体拘束されている患者が廊下から丸見えになっていた。職員がこうした環境に慣れてしまっていることに、危惧を覚えた。
職員から患者への暴力について:患者から具体的な職員名もあげて『暴力を受けた』『叩かれた』との話があった。またこの病院の実習生から「職員の暴力がある」との連絡が当センターに入っていた。(218〜219ページより)
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