「経験が仕事に生かせない」と悩む35歳の根本問題 副業に希望を見いだそうとする人の残念な傾向

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そういった特定の分野(軸)があるからこそ、価値を周りに認知されるのです。反対に、そういった軸が不在だと「いろいろとやっているけど、全部中途半端なヒト」で終わってしまいます。

そもそも、キャリアにおいて「何でもできます」「いろいろとやってきました」ほど価値のないものはありません。もちろん20代前半であれば、「あれこれ探しています、経験しています」でいいのですが、MTさんのご年齢(35歳)を考えると、自分自身の名刺(=自分を際立てる売り)が欲しいところです。

具体的に「どんなことができるか」が重要

キャリアにおいても、ビジネスにおいても、重要なのは「売り」が明確であることで、「具体的にどんなことができますか?」「それは競合と比べてどれだけ優れていますか?」なのです。

キャリアについてであれば、「私はこの道のプロです。専門家です」と言えるか否かです。そういった特定の分野における軸があって、初めて価値を認められるのです。「なるほど、あの分野のプロが言うならば1つ聞いてみようか」とか、「ついでに相談できるならば話を聞いてみたい」のような感じですね。

そういった軸がないということは「売り」が不在であり、自分固有の名札や名刺、値札がないのと同様です。

さて、MTさんのケースですが、本業で生計を立てるのがやっとなので、副業もあれこれとやっている、ということですが、これこそまさに軸が不在の状況です。

本業が何かは不明ですが、現在やるべきことは、不安に駆られてあれこれと手を出すのではなく、自分自身の人生やキャリアにおける軸を形成すること、すなわち少なくともある分野において成功を収めることです。

ご自身の人生における時間や体力といったリソースは限られていますから、「あれもこれも」から始めるのではなく、「まずは軸を創る」ことに注力し、そのうえで「あれもこれも」を考えるべきです。これは何も仕事の話だけではなく、趣味など他のアクティビティでもいえることです。

実際、私も本連載や『「学歴なんて関係ない」はやっぱり正しい』(草思社)などの複数の拙著においても、まずはキャリアの軸を形成すべく、人生を「一心不乱に仕事や関連する勉強に注力する時期」と、「趣味など自身の人生の幅を広げるためのアクティビティにも視野を広げる時期」に分けて考え、最終的にキャリアと人生のバランスをとる、という生き方を紹介しています。

私自身もでは35歳までは仕事に注力し、趣味や遊びなどはそれ以降、と最初から区切って考えており、実際にそのように生きてきております。つまり、最終的には人生におけるバランスが取れた状態を構築すべく、まずは特定分野における圧倒的な経験とスキルを身に付け、それをもって枝を広げる、という考え方です。

そう考えますと、MTさんのケースでは最終的に目指しているゴールはいいのですが、順番や優先順位を間違えているということです。

現状における不安や不満は、複数の仕事に手を出すことで解決するわけではありません。まずは「自分自身が解決するべき問題は何か」を見極め、それに注力し、軸を形成したうえで羽や枝を広げることを考えるべきなのです。

最初に「何者かになる」。そのうえで幅を広げるともいえます。

繰り返しですが、ご自身のリソースは限られています。MTさんの現在の年齢を考えても、今は人生やキャリアにおける軸をいち早く形成するべき時期です。その先のことは、まだ先は長いのですから、ゆっくりと考えれば良いのです。

そのような考え方で、MTさんがまずは特定の分野でご自身を認められるようになり、その軸を起点として人生の幅を広げるであろうことを応援しております。

安井 元康 『非学歴エリート』著者

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やすい もとやす / Motoyasu Yasui

MCJ社長兼最高執行責任者(COO)。アニメーションの企画・制作を手掛けるベンチャー企業を経て、MCJにて東証への上場を経験。その後、経営共創基盤にて戦略コンサルタントして9年間活躍し、2016年3月にMCJに復帰。著書に学歴コンプレックスに悩みながらも独自の方法でキャリアを切り開いてきた様子を描いた『非学歴エリート』(飛鳥新社)や、自分ならではの人生を生きる術を描いた『極端のすすめ』(草思社)等がある。

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