侵攻で浮かびコロナで落下、マクロンの「綱渡り」 4人の戦いとなったフランス大統領選の行方

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もちろんこの報告書が、国民の投票意志にどれだけ影響を与えるのかはわからない。ウクライナ問題でフランス大統領の影は薄いが、一方でウクライナ支援と民主主義と人権を守ろうという「正義」の声には、フランス国民が弱いのも確かだ。

パリにあるロシア側からのニュース報道企業ロシア・テレビを最初に解散に追い込んだのもフランスだ。それはフランスの大手メディアがウクライナ支持にまわり、ロシアに都合のよいニュースを遮断する必要があったからだろう。今では日本でもロシア・テレビのモスクワからの放送を、動画サイトなどで見ることはできない。

今回のフランス大統領選でマクロンに対抗する他の候補も、このような「正義」の下に大政翼賛と化したフランスの状況にタジタジの状態だ。一時期はダークホース的存在であったジャーナリストの極右候補エリック・ゼムールの勢いも停滞している。保守派のペクレスは人気がない。極左のメランションも一定数の支持以上は伸びない。左派のオランドと右派のサルコジがマクロンについているので、マクロンの選挙基盤は鉄壁にも見える。

決選投票はマクロンとルペンが進出?

そこでがぜん注目されるのは、マリーヌ・ルペンだ。前回も決選投票まで行っているが、今回ゼムール票が彼女に回れば、ひょっとして彼女が当選、ということもありうる。フランス人は、アメリカ資本に牛耳られているマクロン政権に、大きな怒りを感じているはずだ。トランプにこけにされ、バイデンに坊や扱いされているマクロンにいらだちを感じているはずだ。となると、マクロンからルペンに乗り換えるかもしれない。

ウクライナ戦争による物価上昇で、国民生活は苦しい。「プチ・ナポレオン」としてのマクロンが再選した場合、国民は今後5年間、再び絶望感を抱くことにもなろう。とはいえ、ルペンにそれを超えるものを果たして期待できるのかという疑問も残る。

それぞれ決定打には欠けるものの、実際上の候補は4人と見ていい。いずれも特徴があり、人を引きつける魅力を持つ。それはマクロン、ルペン、メランション、ゼムールだ。決戦投票にまで進みそうなのは、下馬評では2人、そして最終結果はマクロンと出ている。しかし、2017年の大統領選挙でそのとき誰も予想だにしなかったマクロンが大統領になっているのだから、どうなるかはわからない。

しかし、2017年にマクロンの最大のライバルといわれたサルコジ大統領時代の首相フランソワ・フィヨンは、ちょうどその2月に起こった妻への公費乱用疑惑をめぐるスキャンダル問題に巻き込まれ失墜し、そのまま落選した。思わぬスキャンダルが、マクロンの足元をすくわないとも限らない。

ウクライナ戦争の勢いでなんとか乗り切るか、あるいはマッキンゼー問題でこけるか。フランス大統領選の結果から目が離せない。

的場 昭弘 神奈川大学 名誉教授

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まとば・あきひろ / Akihiro Matoba

1952年宮崎県生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。日本を代表するマルクス研究者。著書に『超訳「資本論」』全3巻(祥伝社新書)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義論』(以上光文社新書)、『未完のマルクス』(平凡社)、『マルクスに誘われて』『未来のプルードン』(以上亜紀書房)、『資本主義全史』(SB新書)。訳書にカール・マルクス『新訳 共産党宣言』(作品社)、ジャック・アタリ『世界精神マルクス』(藤原書店)、『希望と絶望の世界史』、『「19世紀」でわかる世界史講義』『資本主義がわかる「20世紀」世界史』など多数。

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