アゼルバイジャンにクルバン・サイードという人物が書いた『アリとニノ』という小説がある。アゼルバイジャンでは有名な小説だ。その冒頭に興味深い話がある。アゼルバイジャンの首都バクーのロシア人高校での話である。
進歩的ヨーロッパと反動的アジア
教師のサニンが生徒に向かってこう問いかける。アゼルバイジャンの都市バクーは、ヨーロッパに属するのか、それともそうでないのかと。「わが町は、進歩的ヨーロッパに属しているのか、反動的アジアに属しているのか、それを判断してほしい」と。これは1937年に出版された本であるから、ソ連時代ということになろう。
反動的とは、改革や革新に反対する姿勢のこと。教師は当然、生徒は全員ヨーロッパだと答えるだろうと期待していたのだが、あにはからんや生徒は「アジアです」と答えたのだ。主人公アリも、その仲間も次々とアジアだと答える。イスラム教徒たちはアジアが好きだと答えるのだが、教師は反動的アジアが好きであることに怒り、教室を去る。
ここで問題なのは、ヨーロッパは進歩的で、アジアは反動的であるという見解だ。日本人であるわれわれも、反動的アジアの一員であるより、進歩的アメリカやヨーロッパであることがいいと内心思っている。しかし、この生徒たちはむしろ逆にアジアであることを誇示するのだ。
コーカサスから中央アジアに至る地域は、イスラム圏だ。バクーの旧市街は、中東の市街そのものである。これらの地域は19世紀ロシア帝国の侵攻を受け、やがてソ連邦の共和国となり、ヨーロッパ文明の洗礼を受ける。しかし多くの人々は、長い間アジア文化の中にいたので、ヨーロッパであることを、容易には受け付けない。
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