意外と誰も答えられない「民主主義」とは何か 混乱する世界でそれでも民主主義が必要な訳

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現代でいえば、地域の社会的課題の解決を市民自らが提案するオープンガバナンスの理念は、まさにトクヴィルのいう民主主義の現代版です。そこで取り上げられる課題は、貧困や格差、環境や健康、労働や福祉など、まさにSDGsにおいて掲げられた諸課題と一致します。このような諸課題を、政府や企業、研究者やNGO/NPOなどと連携し、市民自らが解決していくことこそが、現代にふさわしい民主主義といえるでしょう。

もし仮に、多くの人が民主主義を学校の教科書で習う「お勉強」、単なる理想や制度の問題として捉えているならば、残念なことです。自分たちの社会の問題を、自分たちの力で解決していくのが民主主義です。いわゆる「政府」や「役所」も、そのための手段に過ぎません。

自分たちと遠い存在であったり、ましてや「お上」として敬遠したりしてはならないのです。私たちは今こそ、民主主義を自分たちのものにする必要があります。そのためには日本の過去の知恵を借りる必要もありそうです。

経営者とは違うリーダーシップ

第3のポイントは「社会を変える人の力」です。私はオープンガバナンスに関わる人々や全学体験ゼミナールで出会った方たちの「人間力」に強い印象を受けました。そのような人たちに共通するのは、平場で発揮される強いリーダーシップでした。それは、必ずしもいわゆる「社会的地位」に付随するものではありませんでした。政府や企業などの組織におけるポジションとは別の、何かその方の人格に根差す「人間力」のようなものが重要な働きをしている、そう感じました。

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そのような人たちは、他の人に命令しません。むしろ人の話をよく聞きます。人にお膳立てしてもらうのではなく、自らが率先して動きます。その情熱と行動、そして何より魅力的な「言葉」で人を動かしていました。私は経営学の教科書などに出てくるリーダーシップとは違う何かを、現場で常に感じてきました。

そのような人たちが、この社会にはまだたくさんいる。あるいは若い世代を含め、むしろ増えている。このような驚きと喜びが、今回の本を支える大きなモチベーションになっています。そのような方たちから学び、そして応援したいということも、この本の大きな柱です。

世界は変わり続けていきます。民主主義もそれに伴い変わる必要があるでしょう。それには、1人ひとりが考え、行動する力が不可欠です。デジタル化を使いつつ、やはり大切なのは日常に根ざした民主主義の活動です。

今こそ現代日本社会にふさわしい、新たな民主主義論を生み出すときではないでしょうか。これを読まれた皆さんも、ぜひ新たな民主的な政治参加の文化の確立に加わってください。「社会を変える人の力」を結集しましょう。どこかの現場でお目にかかることを心待ちにしています。

宇野 重規 東京大学 教授

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うの・しげき / Shigeki Uno

1967年、東京都生まれ。政治学者。東京大学法学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。千葉大学法経学部助教授を経て、現在、東京大学社会科学研究所教授。主な著書に、『トクヴィル――平等と不平等の理論家』『〈私〉時代のデモクラシー』『民主主義のつくり方』、近刊に『政治哲学的考察――リベラルとソーシャルの間』『保守主義とは何か』。

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