84歳で「初のネイルサロン」へ行った女性の心情 「気がつけば老婆の手」それでも美しくなりたい

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「趣味で日本文学の勉強を始めたのですが、コロナ禍で勉強会もオンラインで開催されるようになりました。息子に教わってどうにかパソコンを使っていますが、もっとちゃんと習わなくちゃと思って、市の老人会が主催するパソコン教室に参加したんです。中高年の男性講師に操作を教わりつつ、キーボードに置いた自分の手を見てぎょっとしました。〝なんて醜いんだろう。こんな手、見られるのいやだな〟って」

急に突き上げるような恥ずかしさに見舞われ、美智子さんは思わず手を引っ込めてしまったという。

「老人会の教室ですから、若い人はいないんですよ。それでもきれいな手をしている人はいるから、自分の手がとても恥ずかしくなって。それからです、人の手が気になるようになったのは。それまではそこまで思わなかったのに、同世代くらいの女性に会うと、ついつい手に目が行くようになりました。〝あの人は美しい手をしているな。独身だから自分に手をかけてこられたのかな〟とか。〝あの人の手はふっくらと豊かだけど、家庭をきりもりしている人の手だな〟とか。人様の手を見て、いろいろ思いを巡らせるようになったんです。それと同時に、自分の手を眺めてしみじみ思いを馳せました」

指の第一関節が変形する「ヘバーデン結節」

美智子さんの手は関節が節くれ立って歪み、人差し指の第一関節にはミューカスシスト(手指粘液嚢腫)が浮いている。薬指の第二関節はふくらみ、もう結婚指輪は外せないのだという。

「こういう手、ヘバーデン結節とかなんとか言うらしいですね。痛みはないんですけど。なんでこうなっちゃったかわからないんですが、母も義母も年を取ったら指が曲がってきていたし、加齢に伴う自然なものなのかもしれませんね」

ヘバーデン結節は、指の第一関節が変形して曲がってしまう疾患である。原因は不明だが、一般に40代以上の女性や手指をよく使う人に発症しやすい傾向があると言われている。

美智子さんの手を見て、「風の谷のナウシカ」に登場するセリフを思い出した。病に冒され、固くごつごつした手をした高齢の家臣・ゴルが言う。
「この手を見てくだされ。ジル様と同じ病じゃ。あと半年もすれば石と同じになっちまう。じゃが、わしらの姫様は、この手を好きだと言うてくれる。働き者のきれいな手だと言うてくれましたわい」

若い頃は白魚のようだった手が、年を重ねて形を変える。家族は感謝してくれているし、その手が紡いできたものに自負はあるけれど、一方で「美しさをすり減らしてきたことを切なく思う」と美智子さんは言った。

NPO法人日本ネイリスト協会が40歳以上の女性を対象に行った「ネイルへの意識調査」によると、〝普段ネイルケアをしている人〟は全体の約23パーセントで、〝特にしていない人〟は半数以上の77パーセントを占めた。ネイルケアをしない主な理由としては、「お金をかけたくない」「時間をかけたくない」「何をしたらいいかわからない」が上位となったが、〝特にしていない人〟のうち、「したいと思う」と答えた人は41.4パーセントにのぼった。

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