産経新聞のコラムでは、「あの丸いの、ください」と30歳代のOLが大阪市内の家電量販店に来店した時の様子を伝えている。パナソニックビューティー・ヘルスケア商品チーム主事、山田詩織さんという担当者は「女性は丸い形に癒やされる。理屈じゃないんです」と、組み立てがしにくいという開発チームの意見を説得したという。
利便性の提供という「Time saving」を達成したら、さらに、「Peace of mind」という「癒し」を提供する。そこに至って、初めて真の満足を提供することができたことになる。「ナイトスチーマー ナノケア」は2008年11月の発売から10年3月までの累計で35万台を売上げ、当初計画である月1万台の2倍を上回る好調ぶりだという。
2009年11月6日付日経産業新聞のコラム「デザインここで勝負」に、「デイモイスチャー ナノケア」に関する記述がある。「ナイトスチーマー」の成功体験を活かし、「仕事場でのデスクワーク中に肌を保湿する」ための商品として2009年11月1日に市場に投入された。
パナソニックでの立役者は、前出の山田詩織さんである。「ながら美容」という言葉が全商品で浸透しはじめたところで、その定着を狙い、「ナイトスチーマーをそのまま小さくしたような形に決めた」という。山田さんは2商品について「姉妹のような感じで使ってもらいたい」と語っている。事実、Amazonで「ナイトスチーマー」か「デイモイスチャー ナノケア」を検索すると、もう一方が「よく一緒に購入されている商品」として表示される。狙い通り、「クロスセリング」が成功しているのである。
製品の使用感や効果については、パナソニックのサイト内の「購入者の声!」というコンテンツだけでなく、「カカクコム」や様々なサイトでユーザーの生の声で確かめられる。だとすれば、重要なのは「スチームが見える、見えない」ではないのだろう。まして、オフィスで使用しようと思ったら、デスクでもくもくとスチームを発生させるわけにはいかない。「目には見えなくても、いつでも自分をケアしてくれている、しかも時間を有意義に使える」という感覚が大切なのだ。
ロジャースが「イノベーション普及論」を記してから40年が経っている今日、忙しいながらも癒しを求める現代社会に暮らす人々のKBF(Key Buying Factor=購入要因)は、彼の想像を遙かに超えたものになっているのである。
特に「Time saving」「ながら美容」に見られるように、時間を切り口にした商品やサービスはまだまだ未開発の領域が多く、イノベーションの余地が多く残されている。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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