学生はなぜ「ブラックバイト」にはまるのか 労働法に守られた権利を認識せよ

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一方、そもそも学生にもバイト先(使用者=企業)にも、根本的に抜け落ちている認識がある。それは学生アルバイトといっても、法律上は立派な「労働者」であり、賃金と引換えに一定の時間労働を提供することを約束する「労働契約」をバイト先との間で締結していること。それによって労働契約法、労働基準法などの労働法規が適用され、一定の権利で守られていることだ。

「たとえば、学生が納得のいかない理由でバイト先から解雇されたとする。しかし、それが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」のであれば、権利を濫用したものとして無効となる(労働契約法16条)。

逆に「アルバイト先を辞めたいのに辞めさせてもらえない」という悩みを抱える学生もいるだろう。労働者には「退職の自由」がある。アルバイトも労働者である以上、退職は基本的に自由だ。退職すると明確に意思表示をすれば、使用者側に引き止める権利は存在しない。

要件を満たせば有給休暇も取れる

意外と見過ごされがちだが、アルバイトでも一定の要件をみたせば有給休暇を取得できることはあまり知られていない。たとえば、週3日のシフトで働いているアルバイトであれば、6カ月間継続して勤務をしていれば5日間の有給休暇を取得することができる。有給休暇は労働者の権利であり、原則として、労働者が請求した日時に与えなければならない。

つまり、アルバイトが学校の行事や試験、実家への帰省などのために有給休暇を請求した場合は、使用者は、その日に休ませなければならない。また、有給休暇を取得したことを理由に解雇などの不利益な取り扱いをすることも許されない。

「ブラックバイトの問題を根本的に改善するには、使いやすい充実した奨学金制度の整備をはじめ、学生が学業に専念できる社会環境を構築していく必要がある。同時にアルバイトをしている学生、雇っている企業が労働法に基づく権利を理解することも重要だろう。

とはいえ、一個人が企業にどう 対抗したらいいか。アルバイトも労働者である以上、労働組合(ユニオン)を結成したり、既存の労働組合(ユニオン)に加入したりして企業に対抗するのも当然可能だ(憲法28条)。労働組合という労働者にとって最強の武器を行使しない手はない。

最近では、ブラックバイト問題に取り組む労働組合やNPO、法律家団体などもあるので、相談するのも手だ。学生アルバイトは、企業に便利に使い捨てられる存在ではない。これから社会人として社会を担っていく存在である以上、労働者としての権利行使を早い段階から身に着けておくことは学生生活を有意義に送る上でも必須のスキルとなるはずである。

戸舘 圭之 弁護士

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とだて よしゆき / Yoshiyuki Todate
弁護士(第二東京弁護士会所属)。「ブラック企業」問題に取り組む弁護士が結集したブラック企業被害対策弁護団の副代表をつとめるなど労働事件に積極的に取り組んでいる。その他、民事事件、家事事件など一般事件を広く手掛ける傍ら著名な冤罪事件「袴田事件」の弁護人としても活動するなど刑事事件にも力を入れている。戸舘圭之法律事務所(http://www.todatelaw.jp/
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