“ハレの場”として機能するアドテック
嶋:世界中のアドテックを回って、日本のイベントと違うと思った部分はありましたか?
武富:アドテックでは、デジタルテクノロジーの最先端を走る人たちが集められ、いつもとは違うディスカッションをする雰囲気が作られています。普段のビジネスの場に対して、アドテックは“ハレ”の場なんです。つまり、普段の立場や肩書きを忘れる場だということです。よく、川と川が合流する場所は虹が立って神聖な場所だと言われますよね。そんなふうにお互いの文化や経験をぶつけあいながら、新しい融合が生まれる、普段とは違う特別な場だという感じです。
嶋:世界遺産に登録された京都の下鴨神社も二つの川が合流するところにありますよね。インカ文明でも川の合流地は特殊な場所だと考えられていました。
武富:まさに、そうです。ハレの場というのは、普段のしきたりや服を脱いで自由に交流して高め合う場でもあります。要は「お祭り」ですよね。私がよく言っているのは、「アドテックは神社の境内で開催されるお祭り」だということ。神社のお祭りには参拝客が来てお賽銭を入れてくれますよね、これが「イベント来場者」。人が集まれば屋台の出店も出てきます、これが「出展企業」。信心深いと供物を奉納したいという方も出てきますね、これが「スポンサー」。さらには厄除けのために神主から祈祷を受けたいという方もいますね、これが「カンファレンス」。こうした人の集合でできるハレの場がアドテックです。その雰囲気が海外のアドテックにはありました。
嶋:まさに、普段の肩書を捨てた裸の付き合いみたいなものですね。イベントのノウハウ自体はどのように学んだのですか?
武富:僕は世界中のアドテックを回ったし、ビデオで録画もしていたものですからイギリス本社からは「武富はアドテックギークだ」と言われました(笑)。ですから、本社からノウハウを授かったというよりは、世界中のアドテックを見て回って現場から学んだという感じです。そもそも、イベントのホスピタリティに関しては日本のほうが上だと思います。でも、なぜか面白くない。日本では、会社や業界のしがらみにより所属組織の都合で発言しなければいけないケースが多いからです。
嶋:会社や肩書きを背負ってきているスピーカーは、話せないことがたくさんあったりしますものね。組織の鎧を脱がせて議論させることは、大変だったのではないですか?
武富:すごく大変でした。アドテックは有識者のボードメンバーがイベントで話しあうテーマを決めて、それに沿ってスピーカーを自薦で募集しています。これには皆、最初は怒りました。普通のイベントでは、スピーカーの方々に対して、こちらから出演を“お願い”するのが当たり前だからです。普段「先生」として登壇されている方からすると、「なんで、俺が応募して選ばれなければいけないんだ」と思うのも当然でしょう。しかし、このやり方だとそのテーマを話したい人が自らの意志で集まってくるので、ブレずに議論ができますし、本人もしゃべりたいことをしゃべることができる。結果的に、スピーカーとして参加した人たちからも、「純粋に楽しかった」という声をもらうことができました。最近では、「アドテックは外国なんだ。だから腹が立たない」という雰囲気が定着してきたと思います。
嶋:「ここは異界なんだ」ということですよね。まさに神社の境内のようです。
武富:普段のしきたりは関係ないのです。今回、堀江貴文さんからセッションの提案がありました。普通、堀江さんレベルだったら大部屋で開催されるキーノートプレゼンテーションに出演いただくところです。運営側も集客力のある堀江さんは大歓迎のはずですよね。でも、アドテックではキーノートはグローバルマーケットを扱うことになっていて、外国人の方がスピーカーになるのが通例のためお断りしようとしたんです。それを説明したら「普通のカンファレンスでいいよ」とおっしゃってくれました。
古市:堀江さんだからといって特別にお迎えに伺うわけでもありませんし、スピーカールームもほかの方と一緒です。アドテックでは、あくまで全員が対等な立場なのです。
嶋:神社の境内に位はないということですね。
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