実際、私の周りにいる中国人たちは「デモに参加しているのは、田舎の何も分かっていない奴ら。自分はそんなにバカじゃないよ」と主張する人が多かったし、ネット上では、デモ批判も繰り広げられていた。しかし、表だって反対する人は極めて少ない。当時は、「空気」が違ったからだ。
これは、一般大衆に限った話ではない。政府筋の中国人の知り合いは、当時こんなことを言っていた。
政府も若手幹部は現実的
「政府の会議では、年寄り連中が『日本と戦争だ!』『強気でいくぞ!』とひどくエキサイトしていて、40代以下の若手連中が、まぁまぁと必死で止めている状況。みんな、もううんざりだよ。いい加減に現実を見て欲しいよ。」
ある経営者はこんなことも言っていた。「習近平さんの奥さんも資生堂の化粧品を使っている。資生堂は中国人に人気だ。でも、今は店を壊されるから、みな店頭には置かない。今、ネット販売すれば、大儲けできる」。
つまり、日本から見ると中国人の大きな「意志」に見えた、あの「反日」の感情は、かなりの部分が表層的な「空気」だったように思う。
それから2年がたち、この11月10日にAPEC開催中の北京で、日中首脳会談が実現した。これが外交上、どちらが譲歩したのか、という話はすでに議論されており旧聞に属するので割愛するが、私はこの会談から、日中関係が現実的に前に進む可能性は高いと思う。
カギは「空気」だ。というのは、反日デモ以降、日中の政府間の交流やイベント、誘致活動などは明らかに少なくなったが、別に政府上層部から「日本との交流禁止」のお達しがあったという話はほとんど聞かない。
先ほどの政府筋の知り合いに聞くと、「別に、禁止されている訳では無いけど、もし日本と何かをやって、上の方に睨まれたら大変だし、『触らぬ神に祟りなし』ってことだよ。観光関係や地方政府の役人なんて、日本を誘致したいに決まっている。相当我慢しているよ」という答えが返ってきた。
要は、上層部の役人や経営者が、日本と公式に付き合うのを避けることが増えたのは、何かの決まりや命令があるわけではなく、「空気」を読んで、忖度しているということだ。
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