まず公平感がなければますます希望を失う--『ポストモダンの正義論』を書いた仲正昌樹氏(金沢大学大学院教授)に聞く

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──そこで自分の価値観を問う意味があるわけですか。

自分の善の観念はどういう系統の善なのかわかっていないと、正義についてそもそも語れない。だから、あなたは自分の持っている善の観念をわかっているかというのが、サンデル氏が授業で自問をさせる核心なのだ。そこで、価値判断が無意識に行われたとしても、理由は必ずある。日本の場合、大学で政治哲学や政治思想をやっている人が自分の価値判断を根拠づけ、日本の思想の系譜の中に位置づけようとは、ほとんどしてこなかった。

──著書では、「ミニマルな正義」を勧めています。

今、閉塞感がよくいわれる。以前のような体制変革ができないという意味から、むしろ個人の展望が開けないことに使われる。閉塞とは不思議な言葉だ。もともと左派的な文脈でいわれていたものが、格差社会により、若者の将来展望に意味が投影されている。最近、マスコミでいわれているのは経済的な面が多い。閉塞感の逆、経済的自己実現ができることが希望ということになる。

地方の大学にいて思うのは、若者に希望を与えるには何より公平感が大事ということだ。うちはこういう目的を持った集団(共同体)だから、こういう人を評価する。そういうことをきちんと透明化して示す。それも「ミニマルな正義」になる。

(聞き手:塚田紀史 撮影:今井康一 =週刊東洋経済2010年12月11日号)

なかまさ・まさき
1963年生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了。政治思想史と比較文学を専攻。「ポストモダン」が流行の80年代に学生時代を過ごす。現代思想、社会哲学、基礎法学などの正統学問から文化・社会論まで幅広く議論を展開する。著書に『集中講義!アメリカ現代思想』ほか多数。

『ポストモダンの正義論』 筑摩書房 1785円 253ページ

  

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