私たち「スマホを持った原始人」が得た大切なもの 寄藤文平さんが新しい手帳に込めた「哲学」
ところが、少なくない「なくなっちゃうの?」という反響が。そこで装いも新たに『yPad moss』(2022年2月、朝日新聞出版)として再登場することになった。
「とはいえ、再出発するにはyPadを再定義する必要があると思ったんですよ。そこで、変わりつつある今の社会に生きる現代人を象徴する存在として、Moss man(モスマン)というキャラクターを考えました」
『yPad moss』の帯や巻頭・巻末のチュートリアルページには寄藤文平さんのイラストが入る。描かれているのは、アフロヘアで3頭身の原始人たち。ある者は雲を操り雨を降らせ、ある者はせっせと岩を運ぶ。彼らが一心に育てているのはなんと“苔(Moss)”だ。
Moss manとは?
「彼らはMoss manといって、最新のテクノロジーにも通じているけど、同時に原始的な生活をしています。現代人を象徴するキャラクターとは何かと考えたとき、“スマホを持った原始人”がいいなあと思ったんです。これは僕の着想ではなくて、サイゾーを創刊した小林弘人さんと、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授の柳瀬博一さんの対談を本にまとめたとき(『インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ』2015年、晶文社)、柳瀬さんが『スマホを持った原始人ってタイトルどうかな』っておっしゃっていたのがすごく印象に残っていたんです。そこから来ています」
突如出てきた“スマホを持った原始人”という言葉に、驚きとともにどこかハッとさせられるものを感じる。寄藤さんは続ける。
「スマホを持つようになって、僕らは情報空間の中で生理的な欲求に直感的に答えを求めるようになった。あ、いい感じ。あ、これ見たい。その直後にはもう操作してる。『考える』プロセスをすっとばして、刺激に反応して動く。そこだけ取り出すと、まるで原始生物のふるまいのように見えます。ただ、もう一歩進めて考えてみると、そういうふるまいとは裏腹に、なにか以前よりもゆっくり大切にできるようになったものがあるんじゃないかとも思うんですね」
『yPad moss』のそこかしこに描かれているMoss manたちは、ただただ、苔を育てているのだという。