ガンディーの経済学 倫理の復権を目指して アジット・K・ダースグプタ著/石井一也監訳 ~「第三の経済学」の全貌を鮮やかに描き出す
インド独立の父として知られるマハートマ・ガンディー。彼の経済思想をコンパクトにまとめた好著が出た。
市場原理主義でもなく、福祉国家論でもない。まったくオリジナルな「第三の経済学」という発想が、ガンディーの信念を貫いている。これまで闇に包まれてきたが、本書はその全貌を、遺された膨大な手紙や新聞論説類から鮮やかに描き出す。
たとえばガンディーは、健康な身体をもつ貧者は「ただのランチ」を食べてはいけないという。基本的なニーズを一度他人に依存してしまうと、捨てることができないからである。他方で成功した実業家も、貧者に恵んではならない。慈善行為は結局、貧者を怠けさせ、偽善や犯罪を生み出してしまうからだという。ガンディーは実際、物乞いと施しの両方を「罰すべき罪」にすべし、と提唱した。
かといってガンディーは、国家に福祉政策を期待したわけでもない。経済的平等主義に対しては批判的で、発言からすると彼は、90倍程度の所得格差を容認していたようである。ガンディーは保健や教育についても、国家から自立した機関を作るべきだと考えた。たとえば当時、税収の3分の1が酒税であるような国家が初等教育を運営することは、倫理的に正当化できないとみたわけである。
では、どうやって貧しい人々を助けるのか。ガンディーの主張には、およそ三つあるだろう。一つは「スワデーシー(国産・地元産)」を優先して、外国製品を退けること。これによって労働者たちにも仕事が回り、自立して食べていくことができる。