ロシアの侵攻で露呈「安倍政権」重すぎる負の遺産 北方領土問題はマイナスからの仕切り直しに

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安倍首相は2016年9月にはロシア極東のウラジオストクを訪問。スピーチでは、会場にいたプーチン大統領に向けて「ロシアと日本が今日に至るまで平和条約を締結していないのは異常な事態だと言わざるをえません」「ウラジーミル、私たちの世代が勇気をもって責任を果たしていこうではありませんか」「この70年続いた異常な事態に終止符を打ち、次の70年の日露の新たな時代を共に切り開いていこうではありませんか」と述べた。

同年11月にはプーチン大統領が山口県長門市を訪問。安倍首相との首脳会談が開かれ、領土問題での前進が期待されたが、平和条約問題に向けた「真摯な決意」を確認するにとどまった。

2018年11月、シンガポールで開催された日露首脳会談で、安倍首相は領土問題でさらに譲歩する。1956年に当時のソビエト連邦と日本が合意した共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させることでプーチン大統領と合意したのである。

慎重論を押し切る形で共同経済活動を推進

日ソ共同宣言は、平和条約締結後に北方4島のうち歯舞、色丹の両島を日本に引き渡すことを明記している。日本にとっては、歯舞、色丹のほか国後、択捉の4島一括返還を求めてきた基本方針を改め、「歯舞、色丹の2島先行返還、国後、択捉は継続協議」の路線に譲歩することを意味する。

さらに安倍首相は、一連のプーチン大統領との会談で、北方領土内でロシア共同経済活動を進める方針を表明。日本の外務省内には、日本とロシアとの主権をあいまいにした形での共同経済活動に慎重論があったが、安倍首相側が押し切る形で続けられた。

安倍政権では、安倍氏自身がレガシー(政治的遺産)として北方領土問題の解決と平和条約の締結に強い意欲を持っていた。側近の今井尚哉・首席秘書官(経済産業省出身)は外務省が中心となって進めてきた北方領土交渉に対して「アイデアがない」と不満を表明。経済支援を先行させて領土問題を解決に向かわせるべきだと主張していた。

領土問題で安倍首相が妥協する形で進められた日露交渉だが、プーチン大統領からは明確な合意方針が示されないままだった。ロシア側としては、領土問題での姿勢をあいまいにしたまま、日本からの経済支援をできるだけ引き出そうという計算があったのは明らかである。

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