知的障害者の私が「オレオレ」の受け子をした理由 利用した知人男性に「正直、まだ会いたい」
社会福祉の制度を使うためには、申請・認定・受け入れ事業先の決定・サービス提供の開始など、必要な人に支援が届くまでにタイムラグがあります。皮肉なことに、大規模な特殊詐欺は会社のような組織体なので、生活する力が弱い人に、住むところ・仕事・お金・人間関係・愛情をぜんぶパッケージで提供できてしまいます」(中田弁護士)
女性に「被害者に謝りたい気持ち」を尋ねた
今回、記者は長谷川さんに「被害者に謝りたい気持ち」を尋ねたが、それが必要な質問だったのかと弁護士は逆に問いかける。
「まず、事件を忘れたいという被害者もいるので、事件が終わった後に、謝罪にどこまで力を注ぐかは相手のことを考える必要があります。他方、殺人や性犯罪で、相手の一生に大きな影響を与えた事件であれば、十字架を一生背負うことになるでしょう。
しかし、幸いにして、実質的な被害が出ていない事件で、『ずっと私は犯罪者だ』とくすぶりながら生きていくのが、本人にとっていいかどうかは検討の余地があることです。罪を償い終わった段階で新しい人生を始めてほしいと思います。
やり直したい人が、なんとか社会に踏みとどまっていても、どうしても誘惑や感情的な場面に遭う。そんなとき、グッとこらえるブレーキになるのは、事件を起こしたら失うかもしれない仕事・家族・出番・居場所など、自分にとって大事なものです。心のどこかで、この場所は本当の幸せではないと思ったままだと、捨て鉢な気持ちになりやすい。
ネイリストになる目標があるっていいことですよね。それに向かって自分が着実に近づいていくなかで、手放したくない人間関係を身につけてほしいです」
1度目のインタビューは、体調面のことも考慮して時間が決められていた。時間内に終えると、長谷川さんから「仕事でイヤなことがあったり、辞めたい気持ちになったりしたとき、どうしていますか」と逆取材がはじまり、終えたときにはインタビューと同じだけの時間が過ぎていた。
支援計画では、自立までに短期(〜6カ月)・中期(〜2年間)・長期(職場定着以後〜)の目標がそれぞれ用意されている。
グループホームで生活を整え、就労支援事業所で就労する(短期)。施設退所後の居住先を見つけ、福祉制度を利用した相談機関に登録し、相談援助を受けながら地域生活の安定を図る(中期)。職場や相談機関などの関係の構築を実現し、自立更生と地域生活の安定を図る(長期)。
これまでバイト経験や就労移行支援事業所での作業経験はあるものの、なかなか続けられなかった長谷川さんにとって、「職場での関係構築」や「自立」という目標は、言葉なじみだけはよいものの、とても不安に感じていることが伝わってきた。
裁判のなかで、長谷川さんが「誓います」と答えた場面があった。検察からの「いろんな人が支援に協力している。その期待にこたえて、まっとうに生きていくと誓いますか」という質問への答えだ。
罪を犯したとき、福祉のサポートにつながることは、ある意味ラッキーなのかもしれない。ただ、障害のあるなしにかかわらず、自立に結びつくのは、最後は本人の強い意思次第だろう。
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