知的障害者の私が「オレオレ」の受け子をした理由 利用した知人男性に「正直、まだ会いたい」
──ノッチとはどのような関係ですか。
学校の同級生を通じて知り合いました。お父さんと一緒に働いている人でもあります。同い年で片思いしていました。私と妹の部屋に妹の元彼がいたから、私は弟の部屋に移ってひきこもりになった。それを連れ出してくれたのがノッチ。ノッチの実家で同居しはじめました。
東京に行きたいと話したら、旅費を負担してくれました。「電話して」「電話くるから出て」と言われたのは、事件の当日になって初めてです。その日はもう帰るつもりで荷物をまとめていたのに、「やらないとヤクザに指切られるよ」と言われて、東京に来る前にお腹を蹴られたこともあって、怖くて頭が真っ白になって、断りきれなくて。電話だけならわかったって。
普通に電話するだけだと思ってたけど、おじいさんのいるところに連れていかれて、お金を取りに「行け」ってうしろから背中を押されました。思ってもないことだったから、おじいさんに「逃げて」って言いたかったけど、戸惑っているうちに警察が来て、「逃げて」と言う前に逮捕されました。
知人男性も上の人間に利用されたのでは
──ノッチに利用されたと思いますか。
全体的にみるとそうかもしれませんが、ノッチもその上(の立場の人間)から利用されているんではないかと。私の弟を抱っこしたり、子どもが好きなんです。私と似た境遇で、ノッチも軽度知的かもしれなくて、悪い人といい人の区別がつかないのかなと思います。
──ノッチと関係を断つことを約束したけど、まだ会いたいですか。
正直にいうと、ほんの少しはまだ会いたいと思います。自分と何か似ているし、私も誰かに助けを求めたかったし、彼も誰かに助けを求めたかったのかも。
──おじいさんに謝りたいと考えたことはありますか。
謝りたいけど、謝っても、相手からしたら許してもらえないことだから、その分、こう経験して自分の意見の大切さと、こういうことに気をつけること、いろんな面を気づかせてくれたのがおじいさんだから、そのぶん頑張らないとなとは思いました。その気づかせてくれたのがおじいさんかもしれない(長谷川さんは初めて涙を流した)。
感謝しきれない。自分が変わるチャンスをくれたのかなと思いました。今まで言いたいことを我慢してきたので、相談しなかったから、信用できる人にしようと思います。
2月にもう一度取材した際も、長谷川さんは、もしノッチの情報が何かわかったら教えてくださいと頼んできた。それはできないと断ったが、どうしてもノッチへの思いを断ち切ることができないようだった。
一方で、犯した罪への反省と、被害者への謝罪の気持ちもまた感じられた。「手錠をかけられて裁判所に向かった記憶や感触がまだあります」と話していた。