知的障害者の私が「オレオレ」の受け子をした理由 利用した知人男性に「正直、まだ会いたい」
楠原さんは「彼女もまた被害者の側面があるように感じます」と語る。
障害者が特殊詐欺の加害者として巻き込まれるケースは増えているのだろうか。巻き込まれているとするならば、どのような支援が必要とされるのだろう。障害者の直面するトラブル解決にあたる弁護士集団「全国トラブルシューター弁護士ネットワーク」の代表・中田雅久弁護士に聞いた。
知的、発達障害の人は特殊詐欺への関与が多い
「知的障害者と犯罪について、特殊詐欺に特化したデータはありません。しかし、刑事弁護に携わるなかでの体感としては、知的だけでなく、発達障害の人も含めて、特殊詐欺への関与が多いと感じます。少年事件も含めて、とくに若い人に目立ちます」
今回の長谷川さんは、刑事手続きを受ける軽度知的障害者のなかで「珍しいケース」に属するという。事件に巻き込まれるなかで、知的障害との診断がついていない、少なくとも事件当時は診断を受けていない人のほうが圧倒的に多いそうだ。
「IQ相当値が軽度知的に該当する60〜70程度ですと、会話しても普通に受け答えしているように見えるため、学校でも『ちょっと勉強が苦手』くらいに思われて、本人も親も気づいていないことはあります。
刑務所に何度も入った経験のある人の弁護を引き受けると、実は知的障害があったと判明することがあります。その人が今まで受けてきた裁判の過程では、国選弁護人、検察官、裁判官と担当している法律家がいても、見過ごされているわけです」
刑事弁護にあたる弁護士の態度としては、障害を疑うべきケースもきっとある。しかし、障害の有無について鑑定をすることが、依頼人の利益につながるかどうか判断は分かれるだろう。
「率直に言うと、被害の小さな事件であれば起訴されないことがほとんどですし、起訴されても1回目なら執行猶予が付けられがちです。それがわかっているのに、鑑定請求をして結論が出るまで身体拘束を何カ月も長引かせることを弁護人がやるかというと、難しい。
無罪を勝ち取る、あるいは執行猶予判決を目指すのは弁護士として当然のことです。それに加えて、必要な福祉サービスにつなげることも本人のためになるとの考えもあることに留意すべきでしょう」
特殊詐欺などの犯罪に巻き込まれるのは、ツイッターなどSNSのバイト募集に釣られるパターンが比較的多く、地元の先輩や知り合いに誘われるケースも。長谷川さんは、ノッチと「今も会いたい」と本音を話していた。
「ほかに居場所、人間関係を築ける場所の乏しさがあると思います。支援が足りない環境にあって、本人がさみしさを感じる場合、自分に関わってくれた人の悪い面に気づいても、縁を切れないことがあります。犯罪に関わるような人以外と社会のなかで、関わる機会が制限されてしまっているのが大きいでしょう。