花さんの母親には、全盲の両親がいました。長女だった母親は、小さい頃から大人の役割を演じてきたため、子どもだった花さんに対しても、子どもらしく振る舞うのを許せないと感じたのではないか、と花さんは話します。
「泣くのがいちばん怒られましたね。たぶんそれも『(泣いていることで)できない子ども』のように人に言われたくなかったから。同居していた(父方の)祖母が、そういうことを言う人だったんです。私が何かよくないことをしたときは、母親に対して『お前の親がああ(障害者)だから、お前の子(花さん)も……』みたいなことをよく言っていて。
母はそのうっぷんを私で晴らす。『ちゃんとこの子を育てなきゃ』みたいな気持ちもあったんでしょう」
父親は、母ひとり子ひとりで育てられてきたためか、つねに祖母の味方でした。いつも「仕事に逃げている」ように、花さんには見えていたそう。
「生まれなければよかった」が暗示に
「母からは毎日『生まなければよかった』と言われていたので、もう暗示にかかっちゃった感じでした。クリスチャンの家に育った人が『神様はいる』と思って生きているのと同じように、『生まれてこなければよかった』がデフォルトになっていた」
自らの存在を否定しながら生きるのは、とてもハードなことでした。いつもおどおどしていたため、学校ではいじめられ、ひとりで遊んでいたときには、見知らぬ男から性被害に遭ったことも。中学、高校時代は、年齢より幼く見える自分に近づいてくる男性の存在に気づき、お金をもらうように。得たお金を、文房具など必要なものを買う費用にあてていたといいます。
「もしあの時代にSNSがあったら、(見知らぬ人に)やさしい声をかけてもらったときにどうなっていたか。そう思うと、あのときネットがなくて本当によかった。今、大人にできることはなんだろう?と考えます」
18歳で上京して働き始めた花さんでしたが、不眠やうつ、過食嘔吐の症状が出て、だんだんと悪化していきます。病院で出される薬の量は増え続け、次第に現実と夢の境がわからなくなって奇行が増え、21歳の頃には、統合失調症という診断名で入院することになりました。
「入院中は4人とか6人の相部屋で、私よりハードな症状の人が、いっぱいいるんです。それで、われに返ったというか。『ああ、この人たち大丈夫かな、私がしっかりしないと』みたいな気持ちになって。そこで『この人たち、こんなに薬飲んでいるのに、治っていないのおかしくない?』と思ったんです。
それから『薬が悪いんじゃないかな』と思って、薬をやめました。飲んでいるふりをしながら、薬を捨てたりして。それで病院から呼びだされた母親が、『せっかくお金を払って入院させているのに、薬を捨てるなら入院するな!』みたいに言い出して、実家に連れ戻されて。でもそのまま薬を飲まないでいたら、治ったんですよ(笑)」
なんと見事な治癒でしょう。「薬のせいかも」という己の直感に従った結果、花さんの症状はよくなっていったのでした。
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