中国の「静かな侵食」に台湾社会がおびえる理由 台湾社会のあちこちに影を潜める中国の存在
事後にわかったことだが、銭氏は陳氏の妻の親類で香港国籍を有する元中国人だったのだ。中国ビジネスでは、言葉が通じるだけではダメ。さまざまな「関係」があってはじめてうまくいくのは、もはや誰もが知る「常識」である。銭氏はインフィニーキャピタルの中国事業に深くかかわっていたという。また報道では、銭氏は中国の裁判所が認めるほどの信用に欠ける人物、ブラックリストに入っている人物のようだ。過去に中国国内でさまざまなビジネスを手掛けていたが、多くが信用リスクを抱えたものだったという。
そして9月の臨時株主総会で、高雄のためのチームは、あっという間に高雄と関係のない「よそ者」のチームになってしまった。その後、チームは「株主はすべて台湾人であり、いかなる外国の資本も入っていない」と発表するが、メディアによる調査は続いている。
はたして中国政府の意向を受けて買収が行われたのか。銭氏が中国国内でブラックリスト入りしている点からも、中国政府、共産党とは一定の距離がある人物、企業であり、むしろ中国でビジネスに行き詰まった中国人が、世界に飛び出して事業を拡大した結果と考えられる。だが、外国資本が参入できない分野でも、チャイナマネーがさまざまな形で台湾内に入り乗っ取られてしまうことを、今回のケースで多くの台湾人が感じ取ったのは言うまでもない。
名門大学内での浸透工作
一方、もう一つの事件があり、こちらがより大きなショックを台湾の人たちに与えた。台湾最大の発行部数をほこる自由時報が2021年11月8日、「中国の厦門市政府などが設立した機関が国立清華大学(新竹の清華大)にオフィスを設置し、人材誘致などを行っている」と報じたのだ。同大校友会と厦門市、北京清華大が共同で設立した「清華海峡研究院」が新竹の清華大キャンパス内に「新竹オフィス」を設置。技術開発や人材誘致、投資などを行っているというものだ。
報道を受けて台湾政府は、台湾と中国間の交流のあり方を定めた台湾地区・大陸地区人民関係条例(両岸条例)違反に当たる場合は、50万台湾元(約200万円)以下の過料とともに即時退去を求めると発表した。一方、大学側は、同機関は大学に属しておらず、運営には関わっていないと説明。つまり校友会側が勝手に立ち上げたもので、たまたまキャンパス内に事務所があったという。
しかし、清華大学がどのような大学なのか考えれば、校友会が勝手に、という説明は苦しい。それは、同大の歴史をひもとくと、中国の近・現代史そのものであることに気付くからだ。
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