中国の「静かな侵食」に台湾社会がおびえる理由 台湾社会のあちこちに影を潜める中国の存在

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

これを表す興味深いエピソードがある。2000年頃まで、北京清華大の一限目の開始は7時40分だった。理由はライバルの北京大の開始が8時だからだという。北京の冬は零下17度に達することもある。400ヘクタールの広大なキャンパスを移動しなければならないことを考えれば、学生らは極寒の中で目覚め、出発しなければならない。たったの20分、されど20分。その後、8時となった際に学生らの間で歓喜の声が上がったのは言うまでもない。

1990年以降の中台交流の加速化とともに、北京と新竹の清華大も互いの交流を深めていった。新竹の清華大からすれば、自らのルーツを北京の清華大に見いだし、同志のような感覚を覚え、一方、北京の清華大も国際化を進めるうえで、新竹の清華大は絶好の窓口となったのだ。

半導体製造の中枢も虎視眈々と狙う中国

しかし、先述の通り、北京の清華大は現代中国政治のゆりかごともいうべき存在で、共産党とは切っても切り離せない関係にある。アメリカを中心に孔子学院などの問題がクローズアップされる中、北京の清華大と共産党のパイプも忘れてはならないだろう。あらゆる手段を用いて強硬なスタンスを貫く習近平政権の意向を汲んでいると考えるのが自然である。

近年の世界的な半導体不足の中、脚光を浴び続けている台湾積体電路製造(TSMC)だが、創業者であるモリス・チャンこと張忠謀氏は、1999年に新竹の清華大より名誉博士号を授与されている。

台湾が世界と交渉するうえで欠くことができない半導体製造の中枢に新竹の清華大は位置しているが、中国が北京の清華大を通じて技術や人材を虎視眈々と狙っているように映るのだ。

この2つの事件は、台湾人に中国の影がそこかしこにあることを十分に意識させるものだった。台湾有事は日本有事とも言われる中、今後の状況について注意深く観察する必要があるだろう。

高橋 正成 ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

たかはし まさしげ

特に台湾を中心に、時事問題をはじめ、文化、社会など複合的な視座から問題を考えるのを得意とする。現役の翻訳通訳者(中国語)。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事