鉄道各社が求める上限運賃制度「見直し」の問題点 IC乗車券普及で需要予測は以前より容易なはず

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そこで問題になりかねないのが「上限運賃」である。

「上限運賃」は文字通り上限であり、それ以上の金額の運賃を徴収することができない。上限運賃の認可を受ける場合には総括原価を超えないようにしなければならない。総括原価150万円の鉄道があったとして、向こう3年間の需要見込みが1万人だったとすると、運賃は150円が上限となる。

この場合、鉄道事業者が100円で運賃を設定することは許されるが、200円の運賃を設定することはできない。もし需要の波があるときに、5000人分について運賃100円(運賃総収入50万円)とし、残りの5000人について運賃200円(運賃総収入100万円)とすると、総収入は総括原価150万円の範囲に収まるが、後者は上限運賃を超えるので許されない。

需要の波に対応する運賃を定めようとしても、上限運賃150円以下で定めなければならないから、鉄道事業者が総括原価を割り込む覚悟で運賃を決めるしかないことになる。それが嫌なら運賃改定の認可手続を履践(りせん)しなければならない。

条件付きで許容するのはどうか

ここで上限運賃制度の趣旨を再度考えてみたい。

総括原価を超えない限度で上限運賃を認可するという目的は、利用者の財布に直結する上限運賃そのものの単価をいくらにするかということも重要であるものの、鉄道が経営に必要とされる総括原価を超えて過度な総収入を得ることによって利用者に大きな負担を強いないようにするという目的もある。

それならば、総括原価方式・上限運賃認可制度を維持する場合であっても、総括原価方式による総収入を超えないことを条件に上限運賃を超える運賃の設定を許容することも許されてもよいのではないか。

もともと上限運賃の認可基準となる「総括原価」は予算のようなものである。基準となる向こう3年の需要見込みが実際はどうだったのか、というのは終わってみないとわからないが、ICカード乗車券情報を記録できるスマホの普及により、ビッグデータを用いてきめ細かな需要予測を立てることも容易になっている。

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