鉄道各社が求める上限運賃制度「見直し」の問題点 IC乗車券普及で需要予測は以前より容易なはず

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一方、地域の公共交通機関としての役割が鉄道にはあり、かつ、地域独占企業となる場合が多い。そのため、鉄道事業者の自由な運賃設定に委ねていると、公共交通機関としてふさわしくない運賃設定がされる可能性がある。そこで鉄道事業者に一定の利益を確保させつつ、利用者に過大な負担がかかる運賃とならないものにするのが現行運賃認可制度である。

上限運賃認可にあたっての基準は1997年から「ヤードスティック方式を加味した総括原価方式」が採用されている。鉄道事業者は総括原価を超えない範囲で需要予測(向こう3年とされている)をたて、改定後運賃総収入を想定し、それを得るために個別具体的な運賃額(初乗り運賃額や対キロ制や対キロ区間制などの運賃算定方法に基づいて計算した運賃額)を決めていく作業を行う。

上限運賃制度は、1990年代の規制緩和の動きとあわせて、鉄道事業者が自身の経営判断によって機動的に運賃を変更できるようにするために導入された。鉄道事業者は、上限運賃の範囲内で各種割引きっぷを発売するなどして柔軟なサービス提供をすることが可能となった。鉄道事業者の経費と「適正な利潤」の確保をしつつ、一方で利用者に利益になるような運賃設計を促すという側面をもった制度である。

現行の鉄道運賃認可制度がもつ目的自体は今も十分意味を持つ合理的なものであろう。問題はこの目的を達成する手段の合理性である。

現在はIC乗車券が普及した

この20年の運賃やきっぷの歴史の中で起きた大きな出来事といえば、ICカード乗車券の登場と急速な発展がある。それまでは運送契約の内容が紙のきっぷに表示されていたが、ICカード乗車券はカードそのものよりも電子的なデータに意味を持つことになった。

1枚の紙に1回限りの運送契約情報が固定された紙の乗車券と異なり、複数回の電子的な運送契約情報が繰り返し記録され、持ち主の利用履歴も記録しうる。運賃も自動改札機を通じて乗車駅と下車駅の情報を瞬時に読み取り決済をすることができる。

鉄道事業者からは「ダイナミックプライシング」の制度についての話があがる。混雑の平準化と収入の適正な確保を図るため、利用者が多い時と少ない時とで運賃を変動させる仕組みであるが、より利用実態に合わせた制度にしようとするのなら、紙の乗車券よりもICカード乗車券のように運賃を電子データのやりとりで収受する機能を利用するほうがなじみやすいだろう。

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