日本に「危機管理専門」の官僚が足りない根本理由 国民を危機から守るのに欠かせない2つの存在

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「いかなる時代においても、清廉かつ優秀で、志が高い官の存在は、まぎれもなく、国の宝である」。これは、元経産官僚で、その後衆議院議員に転じ、第3次安倍政権で農林水産相を務めた齋藤健氏が、「職業としての官僚」と題した小冊子に記した言葉である。筆者も、元官僚としてそう思う。

国家的な危機管理の実務において中心的役割を果たすのは、政府の官僚である。平時には、彼らが危機に備えて危機管理政策を企画立案し、危機時には、彼らが中心となって国全体の事態対処に従事する。「国民のために」という彼らの志があって初めて、危機管理が機能する。

国民に危害を及ぼす脅威に対抗する官庁・官職は、いくつかある。軍事には自衛官、陸上の治安には警察官、海上の治安には海上保安官、火災には消防官がいる。しかし、それ以外の多くの脅威に対抗するのは、一般の官僚(行政官)である(とくに、旧内務省の後継官庁である厚労省・国交省・総務省・警察庁)。

自衛官・警察官・海上保安官・消防官は、脅威から国民を守るために日々訓練を積んでおり、それが本務の重要な一部でもある。しかし、一般の官僚はどうか。国民を守る任務を課されているにもかかわらず、危機管理に関する体系的な教育を受ける機会もなければ、訓練の機会もない。

教育訓練を受ける機会がない一般官僚

一般の官僚だけ専門的な教育訓練を受ける機会がないうえに、せっかく危機対応を経験しても2年ごとにポストを異動し、組織的経験も積めないため、いざ危機になった際にドタバタの対応を批判されるという事態を繰り返してしまう。

危機管理活動の直接的な受益者である国民としては、一般の官僚にも高いレベルの危機管理活動を期待したいと思うのは、筆者だけではあるまい。

多くの官僚は、高い志を持って官庁に奉職し、この国をよくするために、日々職務に励んでいる。一方で、その志を持続させることが難しいという実態もある。

「ブラック霞が関」と言われるように、国家の政策立案の本質に関わりのない膨大な些事に手を取られ、勤務時間が朝から朝までという超長時間労働も常態化。「日本の国はどうあるべきか。そのための政策は何が必要で、その実現には何をすればいいか」という能動的な国家論や構想に思索をめぐらし、実行し、国民のために奉仕することが「職業としての官僚」の本懐だが、その時間もなく、民間企業やNGOといった政府外の方々と活発に意見交換する時間もなく、受動的に目の前の些事の処理に追われることが多い。

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