精神疾患と診断された人が「薬漬け」の異常な現実 向精神薬の強制投与は過度に鎮静化させる「拘束」

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「精神科の処方は医師1人ひとりによる名人芸になりやすい。薬物治療のガイドラインすら守らない医師もいる。しかも、医療従事者と患者には情報の非対称性がある。患者は症状に苦しんでいるため、薬について調べる余力がない」(前出の堀合さん)

堀合さんが参加する「抗精神病薬と社会」研究会では、薬を強制しない精神医療のアプローチについて議論している。同研究会は、カナダ・ケベック州で普及している精神科治療薬を自律的に服薬するためのアプローチ「GAM」(ギャム:Gestion autonome de la medication)を研究し、それを応用した方法を当事者や研究者、医師や薬剤師が中心になって日本への導入の可能性を検討している。

服薬の経験がトラウマに

同研究会の主催者の1人で、精神医学の哲学を研究する石原孝二・東京大学大学病院総合文化研究科教授は、精神医療では患者へのインフォームドコンセントが軽んじられていると指摘する。

「医療保護入院(本人の同意なしに強制入院させる制度)は入院の強制であって、治療の強制ではないはずだ。しかし、なぜか治療までもが強制になっている」(石原教授)

研究会のメンバーで、18歳のときに統合失調症と診断されたことがある大矢早智子さん(仮名)は、10年以上経ってから統合失調症ではなかったのではないかと告げられた。女性は、「当時、統合失調症と言われたことや、薬を何のために飲むのか知らされないまま飲んでいたことが、今のトラウマになっている」と話す。

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「飲みたくないと言うと、『病識がない』(自分の病気のことがわかっていない)とされてしまうことが多い。飲まなければ、病状が悪化したと見なされてしまうこともある」(大矢さん)

こうした医療側の論理によって、精神疾患と診断された人は薬を「飲みたくない」「減らしたい」という意思すら否定されていく。病院への収容か、処方された薬を飲むか。そこには本人の意思が置き去りにされたままだ。

井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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