知識を潔く捨ててこそ、ミステリーが解ける--『宇宙は何でできているのか』を書いた村山斉氏(東京大学数物連携宇宙研究機構長・特任教授)に聞く
──所属の数物連携宇宙研究機構という組織は知られていません。
英語名が先についた。略称はIPMU(イプムー)。宇宙を研究するための天文学、素粒子物理、数学の専門家をそろえた研究所で、2007年10月発足と新しい。常勤の研究者は約90人おり、半分以上が外国人だ。文部
科学省の世界トップレベル研究拠点プログラムで生まれた。
──ご自身はアメリカと往復しているとか。
ある事情があって、カリフォルニア大学バークレー校と雇用関係がある。向こうの物理学科で授業をしている。今度の春学期は「量子場の理論」がテーマ。相対性理論と量子力学を連結した、この研究所で使っている理論の枠組みのようなものだ。
──研究所は15時に研究員が集まるコーヒーブレイクがあるなどユニークです。アメリカ流ですか。
建物にも交流のための工夫をしている。研究には、社交もできないような四角四面の人間が集まって、それこそ気持ちとか思いとかが入り込む余地がない、客観性だけの抽象的な世界というイメージがある。しかし、IPMUではまったく違う。
そこでの研究は人間的な作業で、英知を集めて議論し、一方で肉体労働でも汗水をたらす。そして競争しながら、「ミステリー中のミステリー」を解いていく。この本で、そういう人間的活動を垣間見ていただけるとうれしい。
──ご自身を「素粒子の語り部」と評しています。
科学の研究は素粒子に限らず、どんなに人間的で、そこには血沸き肉踊るドラマの世界があるかを知ってほしい。定説だった考え方が引っくり返ったり、こじつけや偶然が新たな道を開いたり。わからないことも多くあって、解明しなければならないことだらけだ。