知識を潔く捨ててこそ、ミステリーが解ける--『宇宙は何でできているのか』を書いた村山斉氏(東京大学数物連携宇宙研究機構長・特任教授)に聞く
──科学者は一つの法則で理解したいという欲求もあるようです。
高名な数学者の言葉に「数学が自然の記述に役立つというのがいちばんのミステリーだ」というのがある。自然科学者には自然は理解できるものだという強い信念がある。それも数学によって法則が記述でき、自然が説明できる。なぜかそれが今まで成功している。
数学者と一緒にいるのでしばしば考えさせられるのが、自然科学でない数学との関係だ。自然科学は現象があってそれを説明する。だが、数学は公理があって定理を導く。そこに自然は何もない。観測もないし実験もない。ところが、そうやって作られた数学が、自然の理解に役に立つ。
──相対性理論の公式E=m2cが有効なのがよくわかりました。
アインシュタインの相対性理論について、普通の人は自分には関係ないと思って暮らしている。だが、たとえば身近なカーナビに役に立っている。GPSで自分の居場所を探索するときに、人工衛星は遠くにあるから、そこから来る情報は相対性理論を考えないと答えは出せない。
──素粒子を知ると、自然現象の説明も科学的に明快になります。
たとえば空はなぜ青いのか。それは原子が青い光を跳ね返すから。どうして原子が青い光だけ跳ね返して、赤い光を跳ね返さないのかをわかろうとすると、原子は、電気的にプラスの原子核の周りをマイナスの電子が回っている構造だと知らないと、わからない。
──Webの導入も素粒子研究から始まったとか。
ヨーロッパのセルン研究所で、研究者同士がデータを共有して仕事をするために作ったのが広がった。今では世の中になくてはならないものになっている。