アベノミクスを支えるリフレ派の理論には、2つの中心的な考え方があります。ひとつは「量的緩和で低金利を促すことにより、企業の設備投資が増える」というもの、もうひとつは「量的緩和がもたらす円安により、輸出が増えて国民所得が上がる」というものです。
実体経済の動きとは乖離するアベノミクスの考え方
まず、「量的緩和により低金利を促すことで、企業の設備投資が増える」という考え方についてですが、この考え方は企業経営の現場感覚とは大きく乖離してしまっています。経営者は需要が見込める時に設備投資をするのであって、低金利だから設備投資をするわけではないからです。
企業は自社の存続がかかっているので、事業採算の見込みが立たなければ新たに投資をしないのが当然です。需要が見込めないなかで設備投資を行なうことは、企業としては愚かな行為と言うしかありません。
その実例が、中国政府がリーマン・ショック後に行なった4兆元の投資です。需要が伸びないなかで国有企業の多くが設備投資を増やしたために、いまや供給過剰に苦しみ、赤字企業が続出しているのです。需要がないところに設備投資を行なっても、中国の国有企業の二の舞いになるわけです。
次に、「量的緩和がもたらす円安により、輸出が増えて国民所得が上がる」についてですが、この考え方も実体経済の動きとは大きく乖離しています。2000年以降のエネルギー価格の高騰によって、日本の企業はかつてないほどに賃上げをできなくなってしまっているからです。
特に日本では、企業が売上げを大きく回復させたとしても、エネルギー価格の高騰分や輸入インフレによるコスト増加分をなかなか価格に転嫁しようとはしないので、その分、売上増に見合った賃上げをすることが難しいでしょう。そして、このような傾向は、価格転嫁力が弱い中小企業に顕著に見られることになるでしょう。
さらに、G7などの声明では「世界経済は過去30年で最も良い状態である」と言われた2005年~2007年の時と比べて、今の世界経済はアメリカだけが持ち直してきており、欧州(ユーロ圏)やBRICS諸国など全体的に景気が芳しくない状況にあるので、かつてほど日本からの輸出を受け入れる余裕がなくなっています。
おまけに、資源エネルギー価格が高騰する以前、日本企業の輸出に占めるドル建て取引の割合は8割もありましたが、その後に円高が長く続いたために、今ではその割合が5割前後にまで減ってしまっています。ゆえに、「円安=輸出増」という公式はもはや過去の遺物に過ぎず、日本企業は思ったほどの輸出増は見込めないのです。
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