松山や石川選手だけでは、ツアーはもたない 日本の男子トーナメント人気復活への道

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激戦の末、日本オープンに初優勝した池田勇太が、面白い表現をしていた。

「プロの技量を試せる、心くすぐる部分というか、そういうセッティングにしてくれたので、俺的にはこれが正しいセッティングだと思うし、今回それで、よしってやる気になったと思う」

ここ1、2年、日本オープンのコースセッティングは大きく様変わりした。それまでは、フェアウェーは限りなく狭く、ラフは限りなく深い。

それは、ともすると技封じ。正直な話、技量を駆使するのではなく、飛ばなくても堅実にフェアウェーに置くゴルフが有利だった。それは見ていても面白くない。選手もつまらない。なぜなら技量を発揮するのではなく、むしろ淡々とフェアウェーに落とし、ラフに入ったらウエッジでフェアウェーに出す。果敢にグリーンを狙わない。つまり消極的なゴルフが有利だった。

全米オープンのセッティングも、ここ数年で大きく様変わりした。そのセッティングの妙味が、ゲームを演出する。スリリングで選手たちの高度な技量を発揮させる、発揮したくてウズウズするように、人為的に演出できるのがコースセッティングである。米国とて、ゴルフ産業は陰りを見せてきた。けれども、男子ツアーはまだ隆盛を極めている。来年は1試合の賞金総額が10億円という大会が、二つ誕生するといわれている。それは、見るスポーツ、魅せるスポーツとしてゴルフトーナメントを成熟させているからだ。スポーツイベントとしての確立である。

選手たちの技量や人気だけに頼るのではなく、むしろ逆に、選手たちの技量を引き出すように、池田勇太ではないけれど、ウズウズさせるセッティングが目の前にあれば、選手たちの闘争本能とプロ意識が高まる。そう仕向けるわけだ。さらに、18ホールのゲームの流れをどう演出し、白熱した戦いにするか、クライマックスをどこに置くか考え、逆転劇もありうるようなセッティング(演出)にすれば、おのずと魅せるゴルフが輝くという発想である。イベントとしての舞台設定である。

今回の日本オープンは、世界ランキング2位のアダム・スコットが参戦した。その影響もあるが、来場者数は初日から4587人。そこから、5154人、8638人、そして最終日には1万0763人、合計で2万9142人となった。これは今季でいえば、春の中日クラウンズに次ぐギャラリー総数である。そのスコット、つまり本物を見たいというギャラリーが牽引し、後半の2日間は逆に、演出効果による「ゲームとしての面白さ」が引き出されての、ギャラリー数だといえる。

選手だけに期待するのではなく、もっと本質的なセッティングと演出をすれば、ゴルファーが見たいゲームが生まれると思う。石川遼や松山英樹がいないからという言い訳は、努力を怠る逃げ口上である。

週刊東洋経済 11月15日号より

三田村 昌鳳 ゴルフジャーナリスト

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みたむら しょうほう

1949年生まれ。大学卒業後、『週刊アサヒゴルフ』副編集長を経て、77年にスポーツ編集プロダクション(株)S&Aプランニングを設立。日本ゴルフ協会(JGA)オフィシャルライター、日本プロゴルフ協会(JPGA)理事。逗子・法勝寺の住職も務める。

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