「職場の妊婦いじめ」が法的に許されない理由 最高裁判決が示した救済の方向性

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専門的だが、関連する条文を引用しよう。

■労働基準法65条

第1項 使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあつては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない
第2項 使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない
第3項 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない

■男女雇用機会均等法

第9条第3項 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第65条1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない

今回の最高裁判決のポイントは、女性労働者が妊娠した場合に軽易業務へ転換させることをきっかけに管理職の地位から降格、減給する措置は原則として男女雇用機会均等法が禁じている妊娠を理由とした不利益取り扱いにあたるとした点にある。

その上で、①女性労働者が自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、又は②妊娠を理由とした不利益取り扱いを禁止した男女雇用機会均等法の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、例外的に降格、減給する措置をとっても男女雇用機会均等法の禁止する妊娠を理由とした不利益取り扱いにはあたらない――としている。

労基法は「人たるに値する生活」を守る

そもそも、労働基準法は、労働者が「人たるに値する生活」を送るための労働条件を保障している法律である(労基法1条1項)。女性労働者が妊娠、出産、育児を安心して過ごせなければ「人たるに値する生活」とはいえない。

一部の企業では妊娠をした女性をあたかも欠陥商品であるかのごとく扱い、職場から排除する動きがある。こわいのは、妊娠は自己責任という考えが職場を支配していたりしていることだ。この背後には、女性にかぎらず労働者を働く機械としかみていない現実がある。「労働は商品ではない」という当たり前の原則が、すっかり抜け落ち、男性の長時間労働が蔓延している中で、そのような働き方が当然とされてしまっている。

しかし、人間である以上、結婚もすれば、妊娠、出産をして、家族を作り生活していく。妊娠をすれば、これまでどおり働けなくなる。今回の最高裁判決は、「職場の妊婦いじめ」ともいえるマタハラによる女性労働者の被害を救済する方向性を示したものといえる。

戸舘 圭之 弁護士

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とだて よしゆき / Yoshiyuki Todate
弁護士(第二東京弁護士会所属)。「ブラック企業」問題に取り組む弁護士が結集したブラック企業被害対策弁護団の副代表をつとめるなど労働事件に積極的に取り組んでいる。その他、民事事件、家事事件など一般事件を広く手掛ける傍ら著名な冤罪事件「袴田事件」の弁護人としても活動するなど刑事事件にも力を入れている。戸舘圭之法律事務所(http://www.todatelaw.jp/
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