論点は2つある。一つは賃金と物価の関係から消費が伸び難いと見られることである。もう一つは金融緩和のもたらす円安の評価である。
賃金と物価の関係は4つのケースに分けられる。
今は物価は上がるが賃金は上がらない状況
(1)は「賃金が増加し、物価も上昇する」というもの。日本経済がデフレに陥る前の状態で、通常の経済の姿として考えられているものだ。これに対して、(4)の「賃金が増加せず、物価も上昇しない」というのが、デフレ下の日本経済の姿と言える。経済がどちらの状態になるのかは、企業や消費者、市場参加者が、賃金と物価の見通しをどう考えているのかという「期待」に大きく左右される。
日本経済が低迷を続ける中で、「賃金が増加せず、物価も下落する」という状態に陥ってしまったので、大胆な政策によって「賃金が増加し、物価も上昇する」という良い均衡に移動させるというのが黒田日銀の政策意図と考えられる。
残る二つの状態は、少し不安定である。
(2)のように「賃金が増加するが、物価は上昇しない」という組み合わせが持続するのは、生産性の上昇速度が速く、経済が急速に拡大している場合だろう。例えば、テレビやパソコンなどの家電製品が急速に普及するときは、価格は急速に下落するが生産・販売数量は急速に増加して、売上は大きく増加する。労働生産性は大きく上昇するので、賃金が上昇しながら、企業も利益を拡大することができる。
最後に(3)のように「賃金は増加しないが、物価は上昇する」という場合は、典型的な状況としては、石油ショックのように外部要因によるコストプッシュインフレを思い浮かべれば良いだろう。
金融緩和政策が最終的に目指すところは、「賃金が増加して家計所得が増えるので個人消費が増加し、需給が引き締まって物価が上昇する。企業収益は好調、労働需給も引き締まっているので賃金が増加する」、という経済の姿だが、現実には円安によって輸入品の価格が上昇し、国内物価の上昇に波及するというメカニズムで物価は上昇している。賃金はあまり上昇していないので、現在の日本経済は(3)の組合せに近い状況にある。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら