日本の知財戦略は、どこがズレているのか グローバル時代に対応した戦略とは?

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――一方で、もうひとつのテーマです。今、「稼ぐための知財戦略」が非常に難しくなっているように思います。製造業でいえばインテル、クアルコムのように中核となる技術を握っているところが市場全体を支配する構造になっている。同じようなことが自動車にも及ぶかもしれない、という恐れもあるように思う。この点は、企業はどのように対応するべきでしょうか。

渡部:最近議論されているのは「オープン&クローズ戦略」です。会社のコアの部分はクローズ、つまり社内だけでやり、そこを収益の源にする。だけど、それ以外のオープン領域、例えば市場を広げるために新興国の人たちに広げていく、あるいは企業向けの高付加価値品をつくる、といった部分は社外の人にやってもらう。こういう考え方がその戦略として非常に注目されている。インテルなどがそうですね。アップルもそうですし、みなそのようにしてエコシステムをつくることに成功している。

吉井:十分、日本企業にもそうしたエコシステムを作り上げるチャンスがあると思っています。IP Bridgeという会社の立場から言わせていただければ、製造業では、とくに大きな可能性がある。たとえばロボットなどは、アメリカのほうで今いろいろと先に進み始めている。さまざまな要素技術は、日本の企業が持っているのですが、数社に分散しているんですね。そういうものを組み合わせて、一つの組み合わせをつくると非常に効率よくロボットのビジネスをできる。我々がそういう動き方をして、一つの事業を作っていきたい。

トヨタ自動車の戦略は秀逸

渡部俊也(わたなべ としや)●民間企業を経て1998年東京大学先端科学技術研究センター情報機能材料客員教授。現在は東京大学政策ビジョン研究センター教授、日本知財学会理事・会長、知的財産教育研究・大学院協議会理事、内閣官房知的財産戦略検証評価企画委員会座長。専門は知的財産とイノベーション、「イノベーターの知財マネジメント」白桃書房(2012)など著書、論文多数

渡部:複数の会社をまとめる以前の課題もありますね。日本の会社は多くの事業部を抱えている。本来であれば、それをつなぎあわせてシナジーを生かしたいわけです。そういう場合、タスクフォースとして、分野横断型のプロジェクトチームをつくればいい。

成功事例は、トヨタ自動車です。トヨタの新興国ビジネスで「IMVプロジェクト」は、今までのトヨタである第1トヨタに対し、第2トヨタといわれている。第2トヨタだけでも新興国で何兆円も売り上げていますが、このプロジェクトはもともとはミドルマネジメントの人の提案です。それを分野横断型で議論させて、最終的には2~3年かけて経営が取り込んだ、という経緯がある。

他社と知財を結合する、ベンチャー企業を買収する、事業を切り出すっていうことも必要でしょうが、それ以前に社内にあるリソースの統合みたいなものを、もっと日本企業は上手にやれるといいと思っている。そこで東大では、来年からタスクフォースのリーダーを育てるプログラムをやります。

――日本にとって都合のいい標準を普及させ、日本企業が潤うようなエコシステムをつくるために、国が乗り出す、ということを総務省、経済産業省などが進めています。これは、どこまでやれるものでしょうか。

渡部:国でやるのは簡単ではありません。数年前、「国の国際標準戦略は全部国が決めるんだ」宣言して、実際にやり始めた政治家がいた。100人ほどの専門家を集めて「自動車の国際標準戦略は、すべてそこで決めるんだ」と宣言し、慌てさせられました。

国際標準にもいろいろな種類があって、日本の測定標準は比較的受け入れられると思います。コミュニティを作ってすべてを無償開放すると、ソフトウェアなどは受容されやすい。ただし、それで儲かるかどうかは別問題です。

吉井:IPの問題については、現在の技術の延長線上で考えるだけでなく、未来の産業生態系はどうあるべきかという視点からの議論も重要です。さまざまな場で、技術起点でなくビジネス起点の「新しい知財戦略の在り方」を議論していくべきでしょう。11月27日の「IP2.0シンポジウム」では、そうした議論をしていければ、と思います。

渡部:知財や特許の専門家以外の人々も積極的に参加してもらいたいですね。「グローバル時代の特許・著作権戦略」について議論を深めていくといいのではないでしょうか。

(撮影:尾形文繁)

東洋経済オンライン編集部

ベテランから若手まで個性的な部員がそろう編集部。編集作業が中心だが、もちろん取材もこなします(画像はイメージです)

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