アパッチ攻撃ヘリの調達、なぜ頓挫? 問われる陸自の当事者能力

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そもそも特科(砲兵)の使用する簡易な観測ヘリと、攻撃ヘリに随伴する生存性を重視した偵察ヘリを統合して開発すること自体に無理があった。OH-1は本来、攻撃ヘリに随伴する偵察ヘリであり、そうであれば調達数は、せいぜい40機もあれば十分だ。であれば偵察ヘリ40機と特科用の安価な観測ヘリを分けて調達すべきだった。

だが、わずか40機ほどの偵察ヘリを国内開発するのでは、さすがに1機当たりの開発費、調達コストが高騰してしまい、大蔵省(現財務省)の理解は得られない。だから生産機数を確保するために、観測ヘリと偵察ヘリを統合して開発する立てつけにしたのだ。

つまりOH-1のプロジェクトは、当初から「悲願」である国産ヘリの開発ありきで、あまりにも筋の悪い話だった。AH-64Dの調達も、この延長線上の、同じような杜撰な計画だった。

では、どのよう調達するべきだったのか。AH-64Dがどうしても必要であれば、調達は輸入にし、数年で終わらせるべきだった。先述のように富士重での生産はライセンス生産といいつつ、ほとんどのコンポーネントを輸入して組み立てるだけの生産であり、日本の国内産業に対する波及効果や技術移転のメリットもほとんどない。ライセンス生産をするのであれば、英国のように当初から国内パーツの使用を計画し、それなりの機数を生産すべきだった。

「ラインセンス生産をすれば自国内でメンテナンスできるため、高い稼働率が確保できる」という主張があるが、そうとは限らない。日本のように何倍も調達費コストであれば維持・修理費まで予算が回らなくなる。まして内製化比率が少なければ、コンポーネントは輸入に頼ることになるため、なおさらだ。

先述のAH-1Sがその好例である。ライセンス生産よるメリットを享受したいのであれば、一定の生産規模を維持し、内製化を高めて調達コストを低減する必要がある。

国内ヘリ3社の実態とは?

防衛省がAH-64Dの国内生産を行ったのは国内にヘリメーカーが3社(川重、富士重、三菱重)もあり、これらに仕事を回す必要もあったからだ。国内ヘリメーカーが3社もある現状は、過剰である。欧州は2社に統合されており、ロシアや中国ですらヘリメーカーは1社に統合されている。

しかも日本のヘリメーカーはエアバスヘリコプターと川重の合弁事業であるBK117という例外を除けば、国内外の自衛隊を除く民間、警察、海保、自治体など含む市場での売り上げはゼロである。つまりヘリ3社とも防衛省の予算だけで喰っているのだ。しかもそこに競争はほとんどなかった。ソ連以上に社会主義的で実質的な国営事業といえる。防衛費に依存し、自立して世界国内の市場に打って出る気がまったくない。その国営事業に仕事を回すために海外の何倍ものコストのヘリコプターを調達してきたのだ。

AH-64Dの事例をみれば防衛省の装備調達が、いかにいい加減かが理解できるだろう。これらは、過去の話ではない。現在、危惧されるのは、V-22オスプレイの調達である。中期防衛力整備計画では17機の調達ティルト・ローター機の調達が示されているが、実質的にほとんど調査も行なわずにオスプレイの採用を決めている。オスプレイの調達コストは通常のヘリの3倍程度でジェット戦闘機並みだ。合わせて維持費も極めて高いとされている。AH-64DやOH-1と同様、ごく少数が導入され、「竜頭蛇尾」的に調達が打ち切られる可能性は否定できない。

AH-64DやOH-1の調達失敗では、だれも責任を取らなかった。オスプレイの調達が頓挫したとしても、だれも責任を問われないだろう。それが現在の防衛省の実態なのである。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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