YKK流哲学「善の巡環」、“部品屋の矜持”を支える
モダニズム建築の巨匠、ミース・ファン・デル・ローエは「ディテールに神は宿る」という言葉を残した。誰もが名前を聞いたことがある欧州の高級ブランド品、あるいは、2年前の北京オリンピックで話題を呼んだ高速水着にとって、“神が宿るディテール”とは、YKKのファスナーなのかもしれない。両者にとって、それほどまでに不可欠なパーツなのである。
YKKはファスナーの世界シェアで約45%と二番手以下を圧倒。リーバイスをはじめ米国の3大ジーンズメーカーは100%同社ファスナーを採用する。名実ともに“ファスナー界の巨人”と呼ぶにふさわしい。
欧州アパレル地図に異変 あえて「逆張り」を選択
YKKの最大の強みは、アパレル関連のみならず、宇宙服から道路用資材に至るまで、幅広い分野に対応できる開発力にある。
その地歩を確かなものにした契機の一つが、1960年代に開発したY-Bar(あらかじめY字に形状をそろえたワイヤー)を用いた新製法である(下図参照)。
従来は平らなワイヤーからエレメント(務歯)用の部材を打ち抜いていたが、新製法を用いることで、無駄な材料くずを大幅に削減するとともに、品質面でも均一化を一段と進めた。さらに90年代、この製法に表面処理など新技術を組み合わせることで、欧州を中心とする高級ブランド向けの製品開発を加速させた。