YKK流哲学「善の巡環」、“部品屋の矜持”を支える

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 そのとき武器になると期待されているのが、ファスナーで培った顧客別対応のノウハウだ。「建設業界も土着産業。土地に根付いているということは、気候や生活習慣、商習慣も含め独自性があるはず。そこで何が必要とされるかは、アパレルメーカーごとに対応が求められるファスナーと似ている」(吉田社長)。

YKKのコーポレートロゴには、こんなフレーズが添えられている。「Little Parts. Big Difference.(たかがファスナー、されどファスナー)」。

最終製品の原価に占めるファスナーの割合は、実に2~3%にすぎない。だが、ひとたびファスナーが壊れてしまえば、その製品は無用の長物と化してしまう。だからこそ、YKKは創業以来70余年、ファスナー製造のみならず、その川上に当たる原材料開発や産業機械の自社生産にも取り組んできた。競合他社は1000回の開閉に耐えれば十分としているが、YKKは1万回の耐久にこだわる。そこが、機能部品としての性を丸ごと引き受ける責任であり、部品屋としての矜持なのだろう。

吉田社長の腹案では、欧州の高級品向けR&D拠点開設に続いて、数年内にも汎用品向けの開発拠点を東アジアなどに設置する。高級品と汎用品、そして建材。あえて三兎を追う道を選んだYKK。目の前の相手に最善を尽くす、彼らの流儀をどこまで貫けるか。経営哲学「善の巡環」の真価が試される。

(猪澤顕明 撮影:田所千代美 =週刊東洋経済2010年10月16日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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