YKK流哲学「善の巡環」、“部品屋の矜持”を支える

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小


 ところが、YKKの技術革新と時期を同じくして、欧州においてアパレル産業の地殻変動が起こる。より安価な労働力を求めて、90年代半ばから、中級以下のブランドが東欧や北アフリカ、アジアへ縫製作業を移管し始めたのだ。

その結果、西欧に残ったのは、最前線でトレンドを追い続ける宿命を背負った高級ブランドのみ。部品メーカーも含めて、生き残りを懸けた短納期化合戦が繰り広げられた。

これに対し、機密管理などの観点から、当時のYKKは開発拠点を日本に置いたままだった。当然、「従来のように日本とのやり取りに時間をかけると、小回りを利かせてサービスしている欧州の同業他社に太刀打ちできない。品質、デザイン、機能、すべてにおいてスピードが近年の最重要課題になってきた」(YKKイタリアの長柄元重社長)。

“巨人”は身もだえしながら、その姿を変容させ始めた。昨年3月、イタリア北部のベルチェリに欧州のR&D(研究開発)新拠点を開設した。狙いはズバリ、イタリア、フランスに集積する高級ブランド向けの開発強化だ。

生産性を最優先に考えるのであれば、西欧の生産拠点を抜本的に集約するという選択肢がまず考えられた。だがYKKは、生産拠点はそのままにしたうえで、さらに日本の主力開発部隊の一部をイタリアに移し、高級ブランド向けの開発を強化するという、逆張りの道を選んだ。

高級ブランド向けの育成を最優先課題に据えるのであれば、それは十分合理的な選択だろう。ただ、YKKの場合は、より高次の思想が“逆張り”の背後に存在した。創業者である吉田忠雄前社長から受け継がれた、独自の経営哲学「善の巡環」(下図参照)である。逆風の中、あえて顧客のおひざ元での開発を増強し、目の前の相手に最善を尽くすことが、YKKの流儀なのだ。


関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事