YKK流哲学「善の巡環」、“部品屋の矜持”を支える
圧倒的な開発力の陰に 4原則から成る哲学
幼少期に読んだ米国の鉄鋼王カーネギーの伝記に影響を受けた忠雄氏は、34年にYKKの前身、サンエス商会を創業。以来、特異な経営哲学に磨きをかけつつ、YKKの全身に巡らせてきた。その根幹を成すのが「他人の利益を図らずして、自らの繁栄はない」という思想である。
中部大学の小野桂之介教授によると、「善の巡環」は「貯蓄」「社員=株主」「成果三分配」「知恵と努力」の4原則から成り立つという。YKKでは、社員の給与の一部が社内預金に回され、その一部が株式保有という形で資本に蓄積される。その資本を元に、積極的な設備投資が行われ、利益増大へと巡りゆく。YKKの圧倒的な開発力は、この経営哲学によって裏打ちされている。
だから、今もなお欧州に残り続ける顧客のため、あえて現地での開発強化を押し進める。だがもちろん、“慈善行為”では終わらない。
2代目の吉田忠裕社長の表現ではこうなる。「ある欧州高級ブランド向けに、こだわった製品を開発すると、それがさらに次のブランドに広がっていく。量は非常に少ないかもしれない。投資対利益ではバランスが取れていないかもしれない。ただ、世界のファッションや流行を作り上げている源泉がそこにあるとすると、とんでもない“量”になって、われわれに返ってくる」。
欧州の新R&D拠点は、開設から半年足らずで早くも成果を上げ始めている。昨年9月には、スワロフスキー社と共同開発した新型ファスナーを発表。引き手部分に配されたクリスタルガラスや、開閉部に施されたメッキ加工は、「ファスナー=アパレルの脇役」という常識を覆す存在感を放っている。