東証の独占を揺るがす私設証券市場・PTSの潜在力と限界
だが一方で、PTS拡大を抑える要因も残っている。一つはTOB(株式公開買い付け)規制だ。現行の金融商品取引法では、取引所外で株式の5%超を買い付ける場合はTOBを行う必要があり、PTSも取引所外と見なされる。PTSで株を買いうっかり5%を超えると、罰金が発生する。それが機関投資家にPTSを敬遠させているのだ。
また、昨年12月に出された金融庁の監督指針で、PTSでの信用取引禁止が明示された。カラ売りについては、社内体制整備などで金融庁の審査を通れば認可される(上位2社とチャイエックスは9月末に認可取得)が、海外と比べ自由度は低い。
「最良執行義務」をめぐる制度と顧客意識の壁
より根本的なのは「最良執行義務」の問題だ。米国では05年4月に「レギュレーションNMS」が採択され、証券会社に対して、最良気配価格を提示する市場での売買が義務付けられた。欧州でも07年11月のMiFID(金融商品市場指令)で、最良気配や流動性なども含む最良条件での執行義務を導入。これにより欧米では投資家のコスト意識が高まり、SORやPTSの利用が進んだ。
一方日本では、05年に最良執行義務が導入されたが、金商法では、最良執行方針は証券会社が総合的に判断することとされた。現状、野村などPTSに接続している会社でさえも、「顧客の指定がないかぎり、取引所で執行」するケースが大半だ。
顧客の国内投資家自身に、最良執行という意識が乏しい。機関投資家は通常、「ブローカーレビュー」で複数の取引証券会社を点数評価し、発注のシェア割を行う。評価基準には調査やセールスの質、系列関係も含まれ、注文執行コストの高低が直接反映されない。チャイエックスを傘下に置く野村といえども、制度と顧客の意識が変わらないかぎり、最良執行方針を変えにくく、東証に発注を集中せざるをえない。PTS事業との両立は簡単ではない。