国内初「内密出産」肯定ムードの報道に足りぬ視点 生まれた子や母親にとって本当にプラスなのか

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「遺棄されるよりまし」という声がある。これは、論点を履き違えている。親を匿名にしなければ子どもが遺棄されてしまうという話には根拠がない。置き去りにされることは子どもにとって虐待だ。想像したあっちの虐待と現実のこっちの虐待を比べて、より「まし」な虐待を子どもに甘受させるなら、虐待に加担することになりかねない。

約30年前に置き去りにされ、実の親が誰かわからない人を取材したことがある。彼女は「私はどうして生まれてきたのだろう。生まれてきてよかったのかな」と話した。「養親に愛情深く育てられればいいじゃないか、という話ではありません。親がわからないことで、子どもは深く悩み、ずっと苦しみ続けます」。彼女は大粒の涙を流しながら話した。

発表される「大きな声」だけでなく、子どもたちの「小さな声」「声なき声」に耳を傾けることが大切だと思う。

モデルにしたドイツでは評価がわかれる

内密出産は赤ちゃんポスト同様、ドイツをモデルにしたものだ。ドイツでは1999年以降、赤ちゃんポストが全土に設置された。初期には法的にグレーゾーンだったため、政府に政策提言するドイツ倫理審議会が問題点を検証し、2009年に見解が発表された。

それによると、ポストによって「救われる命がある」可能性を否定し、ポストの廃止を勧告した。その際に代替策として示されたのが内密出産であり、ドイツ国内の法も整備された。

希望者は相談機関に実名を明かし、医療機関では匿名で出産する。母親の情報は公的機関で管理され、子どもが16歳になれば閲覧する権利がある。内密出産を希望する女性は最初、専門家に相談しなければならない。まずは、実母が育てるための支援につなぐことを重視しているからだ。

「内密出産制度がなければ、医療機関で普通に出産していただろう女性たちがいる」とも報告されており、評価はわかれている。

慈恵病院の赤ちゃんポスト(筆者撮影)
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