国内初「内密出産」肯定ムードの報道に足りぬ視点 生まれた子や母親にとって本当にプラスなのか
慈恵病院が「内密出産」を検討していると最初に報道された2017年当時、私は現場で取材していた。
慈恵病院の「内密出産」とは、病院の新生児相談室長だけに身元を明かし、医師らには匿名のまま出産する形で進む。自治体への出生届は、親の氏名欄を空白にしたまま病院が提出するというのが当初の考えだった。孤立出産で誕生した赤ちゃんをポストに置いていくケースが多いため、匿名でも医療のもとで安全に出産してもらうことが目的だ。
報道によれば、今回の内密出産は10代の未成年女性で、2021年11月に慈恵病院に本人から相談があった。「内密出産」を望んだ理由として、この女性は相手の男からの暴力と、自分の親から縁を切られてしまう恐れを挙げているという。
公的な支援につなぐのが相談機関の定石
暴力を見聞きしたら、警察などの関係機関に伝え、対処してもらうことが必要だ。匿名で出産したからといって、相手男性との関係をそのままにすれば、暴力が続くのではないだろうか。
また、出産によって自分の親に縁を切られたくないという女性の望みによって、新たに生まれた赤ちゃんは実母との縁を切られてしまう。その赤ちゃんはどうなるのだろう。こうした場合は、事実を伝えたうえで縁を切られないようにするソーシャルワーク的な支援がいるのではないかと思う。
何かに困っている人がいれば、公的な支援につなぐのが相談機関の定石である。しかし、出産が内密で行われると、女性は住む地域で何の公的支援も受けられない。産前産後は就業させてはならないと定めている法的権利も享受できないだろう。家族にも周囲にも子どもを産んだことを隠さざるをえない状態は精神的な負担となり、かえって女性を孤立させかねない。
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