国内初「内密出産」肯定ムードの報道に足りぬ視点 生まれた子や母親にとって本当にプラスなのか

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「慈恵病院が内密出産導入を検討」と最初に報道されたのは、2017年12月15日の朝日新聞夕刊だった。1面トップの扱いである。翌16日朝刊には3面で「母子 孤立させず命守る」との見出しで大展開している。

法律がからむ問題であり、戸籍法や国籍法、民法をどうクリアしようとしているのか記事ではわからなかったため、私は病院の蓮田健院長(当時は副院長)にインタビューを申し込んだ。蓮田氏は「具体的なことはこれから」としたうえで、「(朝日新聞には)こちらから相談した」と言った。取材の「お膳立てをした」とも述べた。

蓮田氏の「お膳立て」が全国紙の1面トップになったことに私は心底驚いた。もっと驚いたのは、ほかのメディアもこぞって同じ内容を報道し、内密出産が“よいこと”として広く社会に伝わってしまったことである。

熊本市の慈恵病院(筆者撮影)

今回の報道も2017年と同様の流れ

慈恵病院に関する報道はこのときと同じように現在も、1社(主に朝日新聞)が独自ダネとして“前打ちスクープ”した後、病院が記者会見して発表し、その内容を各社が一斉に報じるという流れが続いている。

ちなみに、内密出産を希望する女性は慈恵病院の新生児相談室長にのみ身元を明かし、医師も女性の素性を知らないとされているが、この室長は蓮田院長の妻である。

今回の内密出産に関し、慈恵病院は女性の出産後、熊本地方法務局に対して質問状を出し、親の名前を空欄にしたまま出生届を出すことが刑法の公正証書原本不実記載罪に抵触するかを問うた。つまり、出生の手続きをどうすればいいか、法的な問題はないのかなどについて、病院側は事前にわかっていなかったということだ。

法務局は「個別に判断されるべき事柄で回答しかねる」と回答した。慈恵病院は「内密出産を導入した」と発表したものの、どんな手続きになるのかを把握していなかったのである。

それなのに病院が内密出産を「導入した」と発表どおりに報じているメディアは、「大本営発表」を報じた戦時中のメディアと同じなのではないかと思ってしまう。出産した女性についてもどこの誰かわからず、実在の人物であるという根拠も不明のままだ。

報道のあり方として非常に危ういと感じる。

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