国内初「内密出産」肯定ムードの報道に足りぬ視点 生まれた子や母親にとって本当にプラスなのか

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慈恵病院は内密出産が必要な理由について、赤ちゃんポストに預けられる子どもが孤立出産(医師や助産師などの立ち会いがないまま、自宅などで子どもを1人で出産)で生まれている割合が多いことを挙げる。2017~19年度に預けられた25人のうち、19人が孤立出産だったと推定されている。

どんな人が孤立出産しているのか。私は関係者の協力で、実際に孤立出産して子どもを預けた女性に話を聞くことができた。彼女は夫ではない男性の子どもを身ごもり、悩んだ揚げ句、「赤ちゃんポストに預けよう」と思い、自宅で出産。預けたとき、病院スタッフに声をかけてもらったことに「子どもとのつながりが切れずによかった」と感謝していた。

預けた子どもは養親のもとで育っている。彼女はその後再婚して2児を育てる「普通のお母さん」だった。「赤ちゃんポストがなければどうしていたと思いますか」と聞いたら、「自分で育てていたと思う」と答えた。

私は、ポストに子どもを置く人を「子どもを育てたくなかった人」だと思っていた。実はそうではなく、それは思い込みだった。当事者に会って話を聞くことの大切さをあらためて実感した。

この女性の場合、幸運にも子どもは生きていたが、孤立出産は死産率が高い。ポスト設置の7カ月後には、「生まれたらポストに置こう」と考えた佐賀県の女性が孤立出産し、死産だったためコインロッカーに遺体を遺棄して逮捕された事件もあった。

赤ちゃんポストの運用状況を検証するため、熊本市は要保護児童対策地域協議会の中に弁護士や児童福祉の専門家、小児科医などでつくる専門部会を設置している。同部会が2021年6月にまとめた検証報告書では、赤ちゃんポストの存在が「危険な自宅出産等(孤立出産)を招いている可能性」を指摘している。

外部の目に入らないことによる懸念

外国人がポストに子どもを置いたケースもある。中国人の夫婦が、1歳の双子のうち障害があるほうをポストに置いたのだ。DV(ドメスティックバイオレンス)をする男性が妊娠した女性に対し、赤ちゃんポストに子どもを置くよう命じたこともあった。内密出産もまた、外部の目が一切入らないことによって、男性が責任を逃れるための手段に使われたり、背景に犯罪があっても見逃されたりするのではないかと、私は懸念している。

赤ちゃんポストに子ども預けた女性は「妊娠を打ち明けたら怒られると思っていたが、誰も怒らなかった。1人で悩まず、『相談していい、助けを求めていい』って、あのころの私に言いたい」と振り返った。

内密出産が大きく報道されることで、「妊娠は隠すべきもの」だというイメージが広がるのでは、と心配している。妊娠は恥ずかしいことでも悪いことでもない。産んだ子どもを「いなかったこと」にはできない。

悩んでいる人に対しては、どんな事情を抱えていても「新しい命の誕生を無条件で祝福し、全力で子育てを支援します」という社会のメッセージが必要なのではないかと思う。

森本 修代 元新聞記者

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もりもと のぶよ / Nobuyo Morimoto

1969年熊本県生まれ。静岡県立大学在学中にフィリピン・クラブを取材して執筆した『ハーフ・フィリピーナ』(潮出版社、1996年)で第15回潮賞ノンフィクション部門優秀作。1993年熊本日日新聞社入社、社会部、宇土支局、編集本部、文化生活部などを経て2022年5月退社。著書に『赤ちゃんポストの真実』(小学館)。

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