ビジネスで「論破」より10倍役立つ「Yes,but話法」 相手の反対意見を聞きながら丸く収める伝え方

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誰だって、自分が正しいと考えてしている発言が聞き入れられなかったり、否定されたりすると、その発言が正しいか間違っているかよりも、「それが受け入れられなかった」という負の感情が先に立ってしまいがちです。そうなると、純粋な議論ができなくなり、感情論に巻き込まれてしまう恐れがあります。

それを回避するためには、どんな意見に対しても「聞いてもらえている」「受け入れてもらえている」と最初に感じてもらうことが肝要です。まずは「ああ、この人は話を聞いてくれる人なんだ」と安心してもらえるようにすることです。

もちろん、そのまますべてを受け入れるわけではなく、最終的にはこちらの思っている方向に誘導していくことが必要なのですが、いったんはきちんと聞いて、受け止めることが重要です。

論破は誰も得をしない

結局のところ、ビジネスにおける課題解決のゴールは結果を出すことであり、クライアントを、いい方向に誘導していくことです。そのときに、必ずしも自分が論破しなければいけないわけではないし、コミュニケーションにおいて勝たなくてもいい。その場の議論に勝つこと自体に、さして意味はないのです。

実際、論破しようとしたことを振り返ると、うまくいったケースよりも、うまくいかなかったケースのほうが多かった印象があります。「いや、こうなんです」と反論したところで、自分が言っていることと180度違うことを言われて、「はい、わかりました」と刀を引っ込める相手はそうそういません。「白がいい」と言っている人には、「絶対に黒がいい」という提案はやはり難しいのです。だったら、「ああ、白ですか。いいですね。でも、ちょっとそれだと色としてさみしくないですか。少し差し色を入れていったほうが印象もつくと思いますよ」と返していく。そして結果的に紺色くらいに落ち着ける、みたいな誘導の仕方をしていかないと、なかなか前には進んでいかないのです。

率直に自分の考えていることを伝えていくことは大切なことだとは思います。しかし、「とにかく伝えればいい」というわけではない。伝え方だったり、人の気持ちの動かし方というのは、順番だったり、時間軸だったりが、極めて重要になってくるのだと思います。

コミュニケーションというのは、つくづく深く、難しいものです。

齋藤 太郎 コミュニケーション・デザイナー/クリエイティブディレクター

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さいとう たろう / Taro Saito

慶應義塾大学SFC卒。電通入社後、10年の勤務を経て、2005年に「文化と価値の創造」を生業とする会社dofを設立。企業スローガンは「なんとかする会社。」。ナショナルクライアントからスタートアップ企業まで、経営戦略、事業戦略、製品・サービス開発、マーケティング戦略立案、メディアプランニング、クリエイティブの最終アウトプットに至るまで、川上から川下まで「課題解決」を主眼とした提案を得意とする。サントリー「角ハイボール」のブランディングには立ち上げから携わり現在15年目を迎える。

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