迷走?「ヨルタモリ」にガッカリする理由 壮大なる「試作品」の行方はどうなる

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たとえば、「もしものシミュレーションバラエティー お試しかっ!」(テレビ朝日系)は、うまく試作品から脱却した番組。深夜番組の時代は、タカアンドトシの2人が、ハバネロ鍋を食べたり、1週間野菜だけで生活したり、体を張って実験する企画を数多く試していました。その中で、「帰れま10(かえれまてん)」というヒット企画にたどり着きます。「帰れま10」は、居酒屋チェーンなどの人気メニュー上位10品を注文しながら当てていく企画ですが、これが深夜であたり、2010年にゴールデンに昇格したときには、「お試しかっ」=「帰れま10」になっていました。

さて、現在も金脈にたどり着けず、迷走中なのが「バイキング」(フジテレビ系)。月曜日から金曜日までMCから企画から、何から何まで数多く試そうとしている心意気は伝わってきます。しかし、放送開始して6カ月以上も経つのに、いまだ「試作品」。莫大な予算をかけて試作品を作り続けられるというのは、制作者としてはぜいたくなことですが、スポンサーや視聴者は困惑しているのではないでしょうか。「ヨルタモリ」は早く、試作品から本作品に昇格してほしいと思います。

シンプルに徹しないのはなぜ

アメリカの3大ネットワークの深夜番組は、どれも「トークショー」で、皆、フォーマットはほとんど同じ。代表的なのは20年以上続く長寿番組「レイトショー・ウィズ・デイビッド・レターマン」(CBS)。トークコーナーでは、オバマ大統領から映画スターまでがゲストで出演し、音楽コーナーではコールドプレイなど人気アーティストがライブで歌いますが、とてもオーソドックスな作りです。デイビッド・レターマンはコメディアンなので、ところどころ、世相風刺コーナーやコントビデオも流れますが、メインはゲストとの1対1のトーク部分です。

視聴率を取るためだったら何でもやるアメリカのテレビ局が、こういうフォーマットに落ち着いているということは、結局、変に凝らないで、出演者の魅力を最大限に引き出すリアルフォーマットのほうが、視聴率は取れるということかもしれません。

「ヨルタモリ」の来週のゲストは井上陽水さんだそうですが、あの奇妙なフィクション空間で話を聞くのは本当にもったいない。

「笑っていいとも!」のファンを取り戻すか、全編フィクションにしてコアファン向けにするか。「ヨルタモリ」が戦略的な方針を固めて、試作品から卒業する日を一視聴者として楽しみにしています。永遠の試作品で終わりませんように……。
 

佐藤 智恵 作家・コンサルタント 

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さとう ちえ / Chie Sato

1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして報道番組、音楽番組を制作。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。主な著書に『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、『ハーバード日本史教室』(中公新書ラクレ)、『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)、最新刊は『コロナ後―ハーバード知日派10人が語る未来―』(新潮新書)。公式ウェブサイト

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