住宅ローン控除「築年数緩和」の重すぎるリスク 築年数要件は事実上撤廃、中古の利点と問題点

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加えて「中古物件」と言っても建築物ごとに状況は異なる。天候や立地など置かれた環境条件やメンテナンス状況によって、傷みや劣化の具合はそれぞれ違うためだ。ひどい雨漏りが発生していたり、シロアリの被害で床下が壊滅していたりというケースに遭遇するのも、築40年の住宅であればそれほど珍しいことではない。ひどい場合は建物そのものが傾いている例もあった。

このような不具合がある中古物件を購入する際には、補修や改修工事が不可欠となる。ケースバイケースであるが、雨漏りやシロアリ被害の修繕であっても数百万、実際のケースでは700万円の費用を要したこともあった。建物自体が傾いている場合にはさらに費用がかかり、数百万単位では済まない事例も実際に存在する。

中古住宅で最大限、住宅ローン減税が適用される場合、2000万円✕0.7%✕10年=140万円となる。一概には言えないが、140万円ですべての耐震改修、補強工事をまかなうのが難しいことは容易に予測される。

築20年でも40年でも同じ「既存住宅」

そして中古住宅の築年数における20年と40年の間には大きな隔たりがある。物件固有の事情はあるものの、築20年の物件は最新の建築基準法の耐震性能を有している点、また瑕疵が顕在化している見地において、一定の品質が担保されていたという見方もできる。だからこそ、ローン控除適用条件の根拠ともなりえたのである。

一方、新耐震基準以降の建築物、築年数40年以上経過した中古物件は先に述べたように、かなり傷みが大きい物件も存在する。耐震基準を満たした建築物であるという証明(耐震基準適合証明書)や隠れた不具合があった場合の補修工事費用を保険金でまかなえる瑕疵保険が物件のコンディションを保証する役割を担っていた。

「2022年度税制改正大綱」では、1981年の新耐震基準より前の中古物件、築40年よりさらに古い建築物で控除を検討する場合は、これまで同様に耐震基準適合証明書が必要となる。ただ、耐震診断を経て耐震基準に合格するには、かなり高い壁となることも付け加えておく。

いずれにせよ今後は、新耐震基準以降であれば、品質が保証できない物件であっても住宅ローン控除の対象となる。「住宅ローン減税の対象となる建物だから安心」という認識はあらため、買主として物件を見極める慧眼(けいがん)が必要になるのは間違いないだろう。

長嶋 修 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長)

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ながしま おさむ / Osamu Nagashima

1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社『株式会社さくら事務所』を設立、現会長。以降、さまざまな活動を通して“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”第一人者としての地位を築いた。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任している。主な著書に、『マイホームはこうして選びなさい』(ダイヤモンド社)、『「マイホームの常識」にだまされるな!知らないと損する新常識80』(朝日新聞出版)、『これから3年不動産とどう付き合うか』(日本経済新聞出版社)、『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ社)など。さくら事務所公式HPはこちら
 

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