住宅ローン控除「築年数緩和」の重すぎるリスク 築年数要件は事実上撤廃、中古の利点と問題点

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中古住宅の購入時に住宅ローン減税を受けるためには、新築購入時の条件にプラスして求められる項目があった。それが建築年数要件だ。

どんな建物であっても、経年劣化は避けられない。しかし住宅ローンは物件に対しての資産価値に応じた形で実施されるものであるから、中古物件が新築物件よりも厳しい要件を満たす必要があるのも当然のことだと言える。これまで、中古住宅が住宅ローン控除の適用となるには、具体的に次のような築年数要件を満たす必要があった。

●耐火構造(コンクリート造)の場合 築25年以内
●非耐火構造(木造)の場合    築20年以内

これらの築年数を超えた物件で住宅ローン控除を申請する場合、「既存住宅売買瑕疵保険」または「耐震基準適合証明書」を取得しなければならないというものだ。

しかし新しい「2022年度税制改正大綱」では築年数要件は事実上撤廃され、「昭和57年1月1日以降に建築された住宅」、つまり新耐震基準適合住宅であれば、控除の適用になると要件の緩和が発表されたのである。築40年程度の木造戸建てでも「ローン減税の対象になる」と認められたことになる。

新耐震基準とは?

ちなみに新耐震基準とは、1981(昭和56)年6月1日以降に導入された建築基準法に基づく耐震基準で、『中規模の地震(震度5強程度)に対しては、ほとんど損傷を生じず、極めて稀にしか発生しない大規模の地震(震度6強から震度7程度)に対しては、人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害を生じないこと』を目標として定められたものである。(国土交通省『Ⅰ 住宅・建築物の耐震化に関する現状と課題 』)

阪神・淡路大震災また新潟県中越地方地震の被害状況を鑑みた際、1981年以前の耐震性が十分でない建築物の被害が甚大であったと報告されている。中古物件の耐震化において、1981年以前の建築物であるかどうかという点が重要視されたのはこのような理由からだ。

新築、中古ともに売れ行き好調の住宅市場において、供給在庫は圧倒的に不足している。新築の不動産価格が大幅に高騰する中、築年数の要件撤廃は中古住宅を購入したい層にメリットは大きいだろう。少子高齢化で空き家問題が社会化するなど、既存住宅の行く末は国にとって喫緊の課題となっている。中古市場住宅活性化を後押しする面での新しい税制改革であるという見方もできるはずだ。

しかし残念ながら、築年数の要件撤廃はメリットばかりとは言えない。新耐震基準が制定された1981年からすでに40年以上経過している。木造住宅では、2000年にも耐震基準の見直しが行われ、地盤面や構造材、耐力壁の配置など新たな基準が設けられた。俗に「81-00(ハチイチゼロゼロ)住宅」と呼ばれる新耐震基準に合致する木造住宅は、現行の耐震性能を1だとすると、0.7を下回る住宅が6割以上、1.0を下回る住宅を含めると8割以上が現在の耐震性能を満たしていない(H30年木耐協調べ)。

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