熊本「アサリ偽装問題」が報道よりずっと深刻な訳 どの産地でも起こりうる!知られざる問題の本質

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中国や韓国で生まれたアサリを、熊本県内の干潟に放って育てる「畜養」を行った場合、畜養期間が長ければ「国産」「熊本県産」と表示できる。これはアサリに限らず、2カ所で育った畜産物は生育期間の長いほうを「産地」と表示できる食品表示法の規定がある。

この典型が和牛だ。和牛は子牛を生んで増やす生産農家(繁殖農家)が生後10カ月ほどで競りにかけ、買い取った肥育農家が20カ月ほどかけて育て太らせ、食肉として出荷する。だから、生まれは関係なく、育ちがブランドとなる。例えば、沖縄県の八重山諸島で生まれた牛でも、三重県の松阪で買い取って育てれば、それは立派な「松阪牛」となって出荷される。ちなみに、八重山諸島はずっと子牛の生産がさかんな場所で、2000年の沖縄サミットで話題となった石垣牛は現地でそのまま肥育されたブランドだ。

と、すると、ここで単純な疑問が浮かぶ。和牛と同じように、中国や韓国から仕入れたアサリを国内でより長く畜養して出荷されたのであれば、「熊本県産」の商品から外国産の遺伝子が出てきても不思議ではない。食品表示法に従えば、海外で2年間生まれ育っても、国内で2年以上、1日でも長く育てば「国産」表示ができるからだ。

表示が変わっても、中国や韓国の遺伝子まで熊本に変わるはずもない。今回のように97%に外国産の遺伝子が見つかったとしても、その割合で畜養されたものが出荷されていれば、なんら問題はないはずだ。

どうして、外国産の遺伝子が見つかったことを大騒ぎするのか。大臣が会見で懸念を表明するようなことなのか。問題の本質はどこにあるのか。

DNA分析が産地偽装の根拠に直接結びつくわけではない

発端である農林水産省に問い合わせてみた。コロナ禍とはいえ、電話1本で済むことだ。代表番号にかけると、消費・安全局消費者行政・食育課につながれた。今回の問題となった食品表示の調査を担当する、いわば“食品偽装Gメン”だ。

そこでまず担当者に、国外から持ち込まれたアサリでも、畜養期間が長ければ「熊本県産」と表示しても問題はないはずであることを確認すると、「OKですね」との言質をとった。そのうえで、同省の行ったDNA分析の結果が、産地偽装の可能性の高いことを示していると語る。

だから、私にはそこがわからない。前述したとおり、サンプル中の97%に外国産の遺伝子が見つかったとしても、流通している熊本県産のアサリの97%以上が畜養であれば、それは産地偽装の根拠にはならないはずだ。そう問うと、あっさり「そうですね」と認めた。つまり、DNA分析の結果は、そのまま産地偽装の根拠と結びつくものではないのだ。

では、なぜ産地偽装が疑われるのか。すると、担当者はこう答えた。

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